4話

濡れる視界の中で、私はずっと母の言葉が頭に反響していた。

「産むんじゃなかった」

私は居ちゃいけない存在だったのだろうか?

ぐるぐると回る頭の中。気持ち悪いぐらいにその時は頭の回転が早かった。

絶望に溢れる中、私に一筋の光が光った。


ピロンッ


スマホの通知が鳴る。覚束無く震える手で携帯を見ると、その通知は彼からの連絡だった。

「大丈夫?」

一気に狭かった視界が広くなった。


「通話したい。」


これがその時の本心。

彼が受けいれてくれて良かった。

discordで彼に通話をかけるとすぐ出てくれた。


「大丈夫?」


あぁ、優しくて、安心する声。

私は彼に今までの状況を話した。

彼は相槌を打ちながら話を聞いてくれた。


「これからどうするの?」


二回目の質問。

私という存在を完全に否定された今。

私の回答はこうだ。


「逃げ出してしまいたい。」


彼は少し黙ったあと、こう言った。


「じゃあ、俺と逃げ出す?」


私はとても驚いた。

だから思わず聞いてしまった。


「冗談はよしてよ?本当に言ってるの?」


「もちろん本当だよ。今から会う?」


彼とビデオで通話した事はあった。

だけど、画面越しでしか彼を見たことがなくて。

少し怖いのと同時に、あなたの人生を私にくれるのがとてつもなく嬉しかった。


でも、彼は東北に住んでいる。

大して私は首都圏に住んでいる。

今から会うには数時間を要する。


「どうやって会うの?」


「今から新幹線乗るから。数時間東京駅で待ってて。」


「分かった。」


断る理由はなかった。

彼はこの逃避行をどう思っているのだろうか。

ただの子供の家出?それとも恋人同士のような旅?それとも、死ぬために、心中するため来る?


私は、言わなくてもしぬつもりだ。

まだ、合法的に家を出る手段は無い。

だから私には、彼と逃げることしか出来ない。


私は、大事な荷物をまとめ、家を出た。

現在の時刻は21時。親は私が家を出ても何も言わない。私に関心はもう無いのだろう。


心の中は晴れ模様。子供が家族旅行へ行く様な、うきうきした気持ちで私は東京へ向かった。

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いつか心中したい 弑侑 @42513150

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