第50話 治癒完了

 白銀騎士団の宿舎に着くとダリルは迷わず中に入ろうとし、白銀騎士団の騎士に止められた。


「ダリル殿、このような夜更けに困ります!」

「良いから通せって! バレン殿の脚が治るかもしれねぇんだからよ!」

「治るわけないでしょう! 酔っぱらいは御自分の宿舎にお戻り下さいっ!」

「だぁぁぁっ、酔ってねぇぇぇっ!」

「何事だこの騒ぎは」

「あん? おぉ!」

「あ、副団長!」


 騒ぎをききつけた白銀騎士団の副団長が宿舎の中から出てきた。青い髪に鋭い目、細く見えるが全く隙のない女性だった。


「【アイス】! お前が出てきたんなら丁度良い! ロラン、アリシア、ちょっと来てくれ」

「……ダリル、貴様……まさか夜間に一般人を敷地内に入れたのか! 規則違反だぞっ!」

「規則より今は一大事なんだよ。ほれ」

「なんだっ!? う、腕!?」


 ダリルは自分の左腕をアイスに放り投げた。


「事件か?」

「いや、それは俺の左腕だ」

「はぁ? 貴様の左腕はちゃんと付いているではないか」

「回復したんだよ。一回斬り落としてからな」

「な、なんだとっ!?」


 ダリルがロランの肩を叩く。


「こいつがエクストラヒールを使える。バレン殿の脚も多分治るはずだ」

「……酔っているのか貴様。そう簡単に治ったらエリクサーはいらんだろう」

「なに、治らんでもアリシアがエリクサーを持ってる」

「あ、あるのかっ! それを早く言わないかっ!」

「だから今すぐバレン殿に会わせろ。バレン殿が治ったら明日の朝すぐにカイン様の治療に向かう」

「ついてこい」


 アイスに続き白銀騎士団の宿舎に入る。さすがに深夜なので宿舎内は静まり返っていた。


「ここだ。少し待て」


 二階に上がりアイスは扉の前に立った。そしてその扉をノックし、声を掛ける。


「団長、アイスです。火急の要件で参りました!」

「開いている。入ってこい」

「はっ!」


 返事を確認しアイスが扉を開いた。


「失礼しますっ!」

「こんな夜更けにどうした」


 部屋の奥にベッドがある。そこに片足のない巨大な筋肉質の男が腰掛けていた。


「団長、黒鉄騎士団のダリルがエリクサーを手に入れてきたそうです」

「なに?」


 バレンの視線が後ろにいたダリル達に向く。


「ダリルと……一般人か。夜間の立ち入りは禁止されているのだがな」

「バレン殿、そこは見逃して下さいよ。なにせバレン殿の脚が治るんですからね」

「……エリクサーだったか。ならば私よりもまずカイン様に使うべきだろう」

「いや、エリクサーは予備でして」

「なに?」


 ダリルはロランを前に出して言った。


「こいつはロランと言って、エクストラヒールを使う回復師なんですよ」

「エクストラヒールだと!? それは聖女しか使えない魔法だ! バカを言うなダリル」

「本当なんですって。アイス、俺の腕をバレン殿に見せてやってくれ」

「ああ」


 アイスがバレンにダリルの左腕を手渡した。


「これは……」

「俺の左腕ですよ。俺も信じられなくてね。エリクサーもあったし、自分の身で確認してきました」


 そう言い、ダリルは左腕をひらひらと動かして見せた。


「バカ者が……。もし騙されていたらどうしたのだ」

「エリクサーを持っているアリシアは俺の幼馴染みなんでね。騙されていたら……騎士団を使って店を廃業に追い込んでやろうかなと」

「ちょっと! うちは品行方正な王家からも信頼ある商会よ! あんたなんかに潰させるわけないでしょ!」

「騎士団副団長の片腕を斬り落としたんだ。潰すくらいわけねぇよ」

「相変わらずのクズね!」

「誰がクズだテメェ!?」

「黙らんか貴様ら! 団長の前だぞ!」


 突然目の前で始まった喧嘩を見てバレンが笑った。


「はっはっは! そうか、ダリルが女性からの誘いを断り続けていたわけはそれか」

「な、なに言ってるんですかバレン殿!」

「意中の女性がいたのではなぁ。相手は幼馴染みか。これは愉快だ」


 そんなダリルにアリシアが言った。


「え? あんた私の事好きなわけ?」

「ん、んなわけあるかよ!?」

「そ。お互い様ね。私もあんたなんか願い下げだし? 私の好みは……ロランかしら?」

「うぐ……っ、くぅぅぅ……っ」


 ダリルが小さくしぼんだ気がした。


「はっはっは! フラれたなぁダリルよ。さて……」


 バレンの視線がロランに向く。


「ロランと言ったか」

「はい」

「……ではロラン。私の脚を治して見せてくれないか? 治せたら明日カイン様と面会してもらう。そしてもし治せなかった場合は……王城への侵入罪で牢屋行きだ。それでもやるか?」

「はい。ではちょっと失礼しますね」

「む?」


 ロランはバレンの左足に触れ、こう口にした。


「【エクストラヒール】」

「むぅっ! この光はっ!」

「ま、眩しいっ! 団長っ!」


 やがて光が治まると、そこには失われた左足がしっかりと床につき存在を示していた。


「ああっ! 団長の足がっ!」

「こ、これは……! 私の足がっ!!」

「治癒完了です。けどまだ慣れないと思いますので徐々に慣らしていって下さいね」


 バレンはふらつきながらもゆっくりと立ち上がり、数歩歩いてみた。


「は……ははははっ! 確かにまだ慣れないが私の足が戻った! ロラン殿……感謝するっ!」

「いえいえ」

「ああ……団長が歩いておられ……うっうっ……」


 バレンは深々と頭を下げ、アイスは立ち上がり歩いたバレンを見て涙を流していた。


「ロラン殿、今夜はここに泊まっていかれよ。明日の朝カイン様に面会していただく。謝礼はその時にあらためて相談させてもらえるだろうか」

「謝礼なんて別──むぐ」


 アリシアがロランを後ろから抱え口をふさいだ。


「それで構いませんわっ。では私達は今夜ここに宿泊させていただきますねっ」

「ああ。明日の朝アイスに使いを出す。アイス、二人を国費級の扱いで頼む」

「は、はいっ! ロラン殿、アリシア殿。客室に案内いたします!」

「むぐぐぐ~」

「ええ、よろしくね」


 ロランは口を塞がれたまま客室へと連れて行かれるのであった。

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借金奴隷から始まる成り上がり!~自由を求めて足掻いた結果、世界を救う英雄になりました~ 夜夢 @night_dreamer466

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