第49話 騎士団宿舎へ

 盗賊達を門番の兵士に任せ、ロランはエリシアと共に幼馴染みである騎士団副団長に会うために酒場を訪れた。


「こんな時間でもまだかなり人がいるわね」

「酒場なんてこんなものですよ?」

「ああ、そう言えばあなたはレストランで働いていたのよね?」

「はい。ちょっと借金を作ってしまいまして」

「ギャンブルなんてするような人には見えないんだけどねぇ……っていたわ、あいつよ」

「あの方ですか?」


 エリシアの視線を辿ると奥にあるテーブル席でグイグイグラスを開けていく筋肉質な男が一人いた。テーブルには空になった皿やグラスがたんまり積み上げられている。


「いくわよロラン」

「あ、はい」


 エリシアはつかつかとテーブルに向かう。


「あ~ん?」

「久しぶりね、【ダリル】」

「あん? お前……エリシアか? こんなとこでなにやってんのお前?」

「仕事に決まってるでしょ。至急第一王子と白銀騎士団団長に面会したいのだけれど」


 そう口にするとダリルはグラスを傾け残っていた中身を飲み干した。


「無理に決まってんだろ。夜は誰も城に入れねぇ。俺たち関係者以外はな」

「そこをなんとかしなさいよ」

「無茶言うな。クビんなっちまわぁ」

「あんたの首で王子と騎士団長の傷が回復するなら安いものでしょう?」

「はぁ? 回復するだ? なんだよ、エリクサーでも手に入れてきたのか?」

「もちろんエリクサーはあるわ。でもそれより凄い魔法を使う人物を連れて来たの。ロラン」

「あ、はい」


 エリシアの後ろに控えていたロランはエリシアの隣に並び挨拶をした。


「初めまして。僕はロランと申します。エリシアさんに頼まれてやってきました」

「……執事か? エリシア、こいつが本当に聖女並みの回復魔法を使えんのか?」

「ええ。あんたのいた孤児院があるでしょう? そこに指を欠損した女の子がいたのは知ってるかしら?」

「……ああ。手袋をつけていた子だろ? まだ子どもだってのに可哀想によぉ……」

「その子の指はロランが治したわ」

「……は!?」


 ダリルはガタッと勢いよく椅子から立ち上がった。


「私の前で直に治療してもらったわ」

「嘘だろ……? 部位欠損を治せる魔法なんて聖女しか使えないはずじゃ……」

「それが使えるのよ。シスターいわく、ロランは神の使徒様らしいのよ」

「か、神の使徒だぁ? は、ははっ。胡散臭すぎる」

「なら証明しましょうか。ダリル、酒場を出るわよ」

「はぁ?」


 エリシアはダリルを引き連れ人気のない場所に移動した。そしてこれまたとんでもない事を口にした。


「ロラン、ちょっとダリルの片腕斬り落としてあげて」

「「は、はぁっ!?」」


 ロランとダリルは同時に驚き声をあげた。


「な、何言ってるんですかエリシアさんっ!?」

「お前な! 冗談も大概にしておけよっ! 騎士にとって腕がどれだけ大事かわかって言ってんのか!!」


 そこでエリシアは鞄から小瓶を取り出して見せた。


「そ、そいつはまさか……!」

「エリクサーよ。これもロランから買ったの」

「……本物か?」

「もちろん。なんならビビりなあんたの代わりに私が腕を落としてみせましょうか?」


 そこまで言われたダリルは舐められてはかなわないと自ら片腕を前に出した。


「やってやんよ。おい執事!」

「はい?」

「今から俺は腕を落とす! 落ちたらすぐに回復しろっ!」

「あ、ちょっ──」

「ふんっ!」


 ダリルは腰に下げていた剣で左腕の肘から先を斬り落として見せた。


「いぃぃぃってぇぇぇぇぇっ!!」

「あぁ、血が! 【エクストラヒール】!!」

「う──うぉっ!?」


 ロランは慌てて駆け寄りダリルの左腕に手をかざした。そして目映い光が辺りを明るくする。


「……マジか」

「だから言ったでしょ?」

「おいおいおい……こりゃ一大事じゃねぇか! ──っ、ついてこい!」

「いくわよロラン」

「ち、ちょっと待って下さい。今血を片付けますから」

「おっと、俺もこいつを持って行かねぇとな」


 ダリルは自分の左腕を拾い、ロランはダリルの血を魔法で綺麗に浄化した。


「だから待ってって言ったのね」

「片付け面倒じゃないですか」

「何してる、早く行くぞ!」


 血を失ったにも関わらずダリルは元気一杯だった。


 それからダリルの案内で城門まで向かう。


「至急だ、こいつらを中に入れてやってくれ」

「ダリル殿、夜間一般人の出入りは……ひっ!? う、腕!?」


 そこでダリルが先ほど斬り落とした自分の腕を門番に見せた。


「カイン・アーメリア様とバレン・ガラハッド殿の部位欠損が治るかもしれねぇんだ」

「ま、まさかその腕はダリル殿の?」

「ああ。俺が自分の身体で試した。あの後ろにいる奴が魔法で治したんだ」

「わ、わかりました。もし何かありましたらダリル殿が責任とって下さいね?」

「おう。次は首でも落としてやるよ」


 そこでロランが口を開いた。


「さすがにそこまではエクストラヒールじゃ無理ですよ? 死んですぐなら僕の仲間が生き返らせる事ができますけど」

「冗談に決まってるだろ。さすがの俺でも首は斬らんわ」

「ですよね~」

「ほら、行くぞ。まずは白銀騎士団の宿舎からだ。王子はさすがに夜は無理だからな」

「わかりました」


 こうしてロラン達はダリルの案内により、城の敷地内へと入るのだった。

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