第48話 到着
馬車の前には盗賊達が麻痺状態で動けないまま山積みになっていた。ロランはその盗賊達を一人ひとりロープで固く縛り上げていく。
「ち……く……しょ……っ!」
「あが……ががが……」
「これで最後っと」
「うぎ……」
全員縛り終えると荷台の中からエリシアが 顔を出した。
「凄いわねぇ~……。何をしたか全く見えなかったわ」
「え? 普通に走りながら一人ひとりに雷魔法を叩き込んだだけですよ?」
「そ、そう」
エリシアはこれ以上聞いても理解できないと考え、尋ねる事をやめた。そして縛られた盗賊達を見る。
「先ほどはよくも散々罵ってくれましたわねぇ。まぁ、あなた方の行き先はあの世か過酷な労働現場。今助かっただけでもありがたいと思いなさい?」
「ぐ……く……そっ!」
ロランは罵声を浴びせるエリシアに尋ねた。
「あの……王都まであとどれくらいあるかわかります?」
「そうねぇ……。普通に歩いたら半日かしら。馬も死んじゃったし、歩いて行くしかないのだけれど……。盗賊達もいるし、どうしましょうか」
「そうですね。では空を飛んで行きますか」
「へ?」
ロランは背中にエリシアを背負い、ロープで身体を固定する。
「だ、だだだ大丈夫なの!? 空なんて本当に──」
「はい、浮きますよ~」
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」
ロランはふわっと地面から浮かび上がり、地面と身体を平行にした。
「う、浮かんでるわっ! まさか人間が飛べるなんて!」
「じゃあ高度上げますよ。盗賊達も地面から浮かせなきゃならないので」
「あわわわわっ! た、高いっ!?」
そうして全員を抱え、ロランは街道に沿い北へと進んでいった。
「はやいぃぃぃぃぃぃぃぃっ! もっとゆっくりぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
「え~? なんですか~? ちょっと風の音で聞こえなくて~……」
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
漆黒の夜空にエリシアの絶叫が響くこと数分。
「あ、見えてきました! 下りますよ~」
「は、早く降ろしてぇぇぇ……うぷっ」
ロランは空から町へと入るための門の前に向かう。
「ん? んなっ!? ひ、人が降ってくるだとっ!?」
「な、何事だっ!?」
門を守る兵士達が慌てて槍を構える。だがロランは当たり前のように地面に下り、兵士に話し掛けた。
「あの、盗賊を捕まえたのですが」
「お、お前が盗賊じゃないのか!?」
「え?」
「怪しい奴め! 我らがいる限り決して町には入れさせんぞっ!!」
「え? ぼ、僕は違いますって! ね、ねぇエリシアさん!」
「……うぶっ──」
──しばらくお待ち下さい──
「わ、私はマリーベル商会会長、エリシア・マリーベルよ。この人の言っている事は本当よ」
「マリーベル商会といえば王室御用達の?」
「ええ。騎士団団長と王子を治療できる人を連れてきたの。その途中あいつら盗賊に襲われて馬車を失ったわ。もしかしたら先に冒険者二人組がこっちに来てなかった?」
「冒険者二人組……あ」
兵士達は思い当たる節があったようだ。
「何やら慌てた様子で走ってきた二人組はいましたが」
「そいつらは私が雇った護衛よ。そいつらは私達を見捨てて逃げたの。名前は……」
エリシアは兵士に冒険者二人の名を告げた。
「その二人なら確かに町に入りました。まさか依頼を放棄して逃げた者とは……」
「ロランがいなかったらこの私も危なかったわ。そして……これから起こるだろう悲劇もロランが防いだわ」
「「……その頭から吐瀉物を被った青年がですか?」」
「うっうっうっ……」
ロランは水魔法で頭を洗い流していた。
「……仕方ないのよ。人間は空を飛ぶようにはできていないんだから」
「は、はぁ……。と、とりあえず手配書と照らし合わせますので……」
一人の兵士が詰所へと駆け、犯罪者の手配リストを手に戻ってきた。
「お、おい! 見ろこいつ!」
「あっ! 今まで絶対に捕まらなかった青蛇じゃないか! いや待て! 黒鷲もいるぞ!」
「こいつら組んでやがったのか! 中々尻尾を掴めなかった一級のお尋ね者じゃないか!」
そう驚く兵士二人に向かいエリシアはこう告げた。
「手柄はあげるからさ、私達を今すぐ城に通してくれない?」
「え? い、いやそれは……」
「無理は承知の上よ。でもね、早く王子と騎士団団長を治療したいの」
「そう言われましても……」
城は夜間何者も通さないようになっている。いくら兵士と交渉しようと無理なものは無理だ。
「あ! 私達では無理ですが、今の時間ならばまだ酒場に副団長がいます」
「げ、あいつか」
副団長と聞いたエリシアの表情がわずかに歪む。
「まぁ、この際だから仕方ない……か。わかったわ。じゃあそこの盗賊達は好きにしてちょうだい。それと……冒険者二人も捕まえてね」
「「はっ!!」」
「ロラン、酒場に行くわよ」
「あ、はい」
ちょうど風魔法で頭を乾かし終えたところで声が掛かった。ロランは上着を着替えエリシアの後ろに続く。
「エリシアさん、副団長さんとは知り合いなんですか?」
「……あいつとは幼馴染みなのよ」
「へぇ~。幼馴染み」
「ええ。でも私は嫌いなの」
「なんでです?」
「……会えばわかるわ」
「えぇぇ……」
こうして無事王都に着いたロランは城に入るために、エリシアの幼馴染みである騎士団副団長にあうため、酒場へと向かうのだった。
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