ファーストコンタクトの際はアメーバと踊りましょう

飛辺基之(とべ もとゆき)

とんでもない奴が来た

世紀末と騒がれた時代も忘れ去られた21世紀半ばである。とある隕石が飛騨山脈に落下した。隕石自体の被害はない。ちょっとした爆音と、夜空の輝きだけだ。

かつてだったら「恐怖の大王の飛来?」と騒がれただろうそのニュースは、大騒ぎにもならずにキュレーションサイトのひとつにアップされ、あとは忘れられた。


人間の脳に忍び込むアメーバが確認された。

とある人物が突然倒れて、死亡が確認された。最初は脳梗塞かなにかだろうと思われたが、その脳にあるアメーバ状の細胞が確認された。

どうも、そのアメーバは人間の脳に巣食い、ある瞬間に殺してしまうらしい。

各地で脳にアメーバが巣食う人たちが確認されたのだ。


そのアメーバが、どうも不思議だった。脳に巣食うが、凶暴でない時はただ巣食うだけだ。侵略された人が、みな一様に死ぬわけではない。

ある条件が整うと、その細胞は脳を破壊して、宿主を殺してしまうらしい。


「乗っ取りだ」


と、恐怖が広がった。

個人を支配するが、なかなか殺さないアメーバ細胞。それは次第に驚くべき正体を現した。


DNA解析から、そのアメーバはあの時の隕石、宇宙から飛来した、飛騨山脈に落下したあの隕石から広まったと確認されたのだ。そのアメーバは、人間の脳の構成物質が嗜好のようだったが、死んだ人たちを調べた結果、どうやら怒りの際に脳に生じる脳内物質に反応してその個人を殺す場合がある事が確認された。


「おい、突然のエイリアン細胞で脳が支配されるし、怒る事もできないぞ」


恐怖が広まった。


『怒らないぞ教』という新興宗教まで現れる始末である。


「笑顔こそが生きる道」


と、本屋にはたくさんの本が並んだ。


そのアメーバが広まる経路だが、野菜などに分かりづらく付着している事が確認された。それは大変な事だ。実際問題、膨大な野菜に付着するアメーバ細胞を逐一確認して駆除するなどできない。


世間で騒ぎが起きて「アメーバ付着してません」というフレーズで売る八百屋も現れたが、実際は『現実的確率論』である。


つまり、アメーバ細胞が野菜に付着してる時は付着してるし、付着してない時は付着してない、といういい加減な確率論だ。


「どうしたらいいのよ!」


絶望が広まる。

こんな形のエイリアンの侵略で人類が滅亡するのか?

それは現実が示す現実の脅威の力のほんの一部だった。


絶望の支配する中で、ひとつの明るい情報が伝わった。ある偶然からそのアメーバはどうも宿主の人が音楽を聴いていると穏やかである、と判明したのだ。


例えそのアメーバは宇宙から飛来したエイリアンとはいえ、実際の生物種としてのレベルは『赤子』のようなもので、遊んでいると赤子として喜ぶのだった。

人類は脳を支配しているアメーバに殺されない為に遊び始めた。


『遊びながら仕事する秘訣』というハウツー本まで出始めた。


「社長、それ傑作ですよ」


「生き延びられる大草原」


はその年の『象徴語大賞』を獲得した。


この流れで、そもそも人間は遊ぶものですよ、と言い張る連中まで現れだした。人々は焦れたが、しかし怒りを表に表現出来ない。


「苦るちぃ」


人々は諦めでため息をつくのだった。


例え死なない方法がわかっても、それを続けるのも大変な事だし、また、人たちに「人間ってこんなもん?」と落胆をもたらすのだ。


疲れが支配した中に、突如明るいニュースが飛び込んだ。そのアメーバは、単純にある種のアルコール成分に弱い事が判明したのだ。赤ん坊はただのお酒に弱い赤子だった。


人々は歓喜し、そのアルコール成分を利用して駆除を始めた。


駆除は進み、人類を支配したアメーバはほぼ根絶やしだ。みんなに笑顔が戻る。

そして解決した時、人々は正気に戻り、「あの時の悪ふざけはなんだ」と喧喧囂囂になった。


「部長、あれはないでしょう!」


「中島君、あれは一体なんだったんだね!」


人々は怒りを爆発させていがみ合い始めた。アメーバは、人類の側面をはっきりさせる試薬のようなものだと囁かれた。


『喉元過ぎればアメーバ』と揶揄されるのである。

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ファーストコンタクトの際はアメーバと踊りましょう 飛辺基之(とべ もとゆき) @Mototobe

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