.*˚オグロプレーリードッグ˚*.。むいしき霧先ログハウス









  ちょうど、暑い時期にあったこと。



 ここはパークにある「こはん」。私と同じくフレンズの "アメリカビーバー" 殿たちで此処にログハウスを建て、共に暮らしているであります。


 と、その前に話は逸れますが、若干私は口調にクセがあるため語りが不慣れであります。

 だけどどうしてもお話したく思いまして。


 ここからは頑張って普通に喋りますので、どうかよろしくお願いするであります。



 話を戻します。

お昼時のログハウス内、私たちはうつ伏せに木のジェンガをしながら過ごしておりました。


 ただ、明るい空の下で有意義に・・・と言うわけでなく、手持ち無沙汰って感覚が大きかったです。

 と言うのも── .💭 *゚


「外の霧、全然晴れないっすね〜......」


 ビーバー殿がうつ伏せのままブロックを抜き、吹き抜けのベランダを眺めながら呟く。

 朝から日差しは届かず、なのに暑苦しくて真っ白。出入口のハシゴも霞んでおりました。


 特にビーバー殿は心配性で何か感じるものがあるのか、ひどく外出をためらっていました。

 確かにここは湖に囲まれているため、時にはこういった天気もあるのでしょう・・・。


 だけど、ドジな私でもこれは分かる。

何も見えないと言うのはとても不安。ただそれ以上に、得体の知れない怖さもあるというか。


 夜になっても真っ白で結局この日、霧が晴れることはありませんでした。

 すでに異変は起きていたのかもしれません



 次の日の朝。

時間で言うと4時ほどに目覚めました。ボーっと外を眺めるも、相変わらず薄暗くて真っ白。

 右隣ではビーバー殿が私に背を向け、まだスヤスヤ眠っております。


 ここだけの話、彼女は少しお寝坊さん。かく言う私こそプレーリーだからか、朝早いのですが。


 私は寝ぼけつつ、隅にある木箱を開く。

 そして思わず眠気が吹っ飛んでしまった


「これは、マズいでありますな・・・」


 何とも間が悪いことに、ジャパリまんの備えが尽きていました。思えば最近、何故かボスが近くに現れなかったのもある。

 いよいよ外へ出るしかなくなりました


 念のためビーバー殿も起こそうか考えたけど、彼女の寝顔を見るとどうも気が引けて断念。

 まあ近くなら一人で大丈夫だろうと考え、ハシゴに足を掛けます。


 そうそう、このログハウスは高台造り。

地上からハシゴを掛けて上り、床から出入りする形です。実は玄関ってのがありません


 ( 霧で手元さえ見えづらいであります... )

 しかも湿気のせいで手が滑る。


 降りたあと一本道で掘り進めば迷わない──と昨日から思ってたのですが、そもそも地上へ降りるまでが危なさ過ぎ。

 それでもどうにか時間を掛けて降り終えた。


 目を凝らして先を眺めますが、やはり何も見えません。ところが──


 「あれ・・・?」


 "ある違和感" と、同時に水の音が聞こえてきました。流れる音と言うより、バシャバシャと誰かが泳いで来るような。

 すると意外な姿が霧の先から現れました。


「おろっ プレーリーちゃん久しぶり!」


 なんと "コツメカワウソ" 殿でした。前にゆうえんちでパークの皆と集まったことがあり、その際に仲良くなった娘。

 そして何が意外って、カワウソ殿はここから少し遠いジャングルにいるので──


「え、ちょっ カワウソどの!?」


 ところが何故か彼女は泳ぎを止めず、こちらを無視して通り過ぎようとする。

 私は妙なものを感じ、どうにか尻尾にしがみ付く形で引き止めた。


 実はこの行動、私たちにとって思わぬ形で二つの功を奏すことになる。


 それからカワウソ殿は大人しく陸に上がりますが、「何するの!」とか「どうしたの?」等の感情は向けておらず、ただポカンとしておりました。


 一度カワウソ殿を連れてハウスへ戻ることに。ところが、湿気でハシゴが上りづらいこと・・・



「あれ...ごめん、下からプレーリーちゃんを支えるからそのまま上っていいよ!」


 四苦八苦する私を、カワウソ殿が片手と尻尾を使って器用に押さえてくれた。

 彼女は一瞬、我に返ったかのようにハッとしていた気がする。


 ハウスに着くと、まずビーバー殿を起こして場を整えました。彼女は寝覚めが良くて苦労しませんが、先の事での疲れかどうも体が重たい。


 それからカワウソ殿も交えて話を聞いたところ、ジャングルにも急に濃霧が発生したと言う。



「だから私も早起きして見回りしてたんだ。でもこはんに迷い込んでたみたい。

 あと今さらだけど、いいお家だね」


「そうでしょ~オレっち達の自信作なのでっ」


 寝起きのビーバー殿が胸を張り、カワウソ殿も笑顔を見せる。さっき無視して通り過ぎたのにはビックリしましたが。


 幸いなことに、カワウソ殿は余分以上にジャパリまんを持っていました。

 他のフレンズ達に行き渡らせるのと、余ればおて玉に使う予定で (なぜ??) ボスから多めに貰っていたとのこと。


「大変だったよね、置いとくから食べて!」

 彼女には頭が上がらないであります。


 先ほどの "功を奏した" 内容がこれ。



 それから三人でお話などして、夕闇の霞む頃まで過ごしました。ですがそれでも霧は晴れませんでした。


 ふと、膝を抱えて座るカワウソ殿が言う


「少し考えてたんだけど、やっぱ何かおかしい。私プレーリーちゃんとビーバーちゃんのところに着くほど絶対泳いでないよ」


 彼女に対し、さっきから何かが噛み合っていない気がした。それに連なって私も気になることがあったので聞いてみることに。


「ちょっと別の件になりますがカワウソどの。先ほど私を通り過ぎた理由が、自分で思い当たるでありますか?」


 もちろん、根に持ってるとかではない。

カワウソ殿の性格上、まず立ち止まるし近寄ってくれるはず。久しぶりに再会したんだし。


 彼女は首をかしげ、少しして答えました


「・・・どうしてだろ。自分でも思うけど、「お!」って感じたものを私が放っとくはずないよね??」

「それこっちに聞いちゃうっス!?」


 質問を質問で (しかも本人の事を) 返されても困るでありますが...どうやら自身が分かっていない様子だった。


 するとビーバー殿がこんな事を言い出す


「もしかするとですがこの空気...いや、霧が何か関係してるのかもしれないっすね・・・」


 心配性な性格ゆえか、目ざとさ抜群のビーバー殿。私とカワウソ殿に促され、彼女は言葉を続けます


「何かオレっち自身、物事を心配に思わなくなっている気がするっス──


 例えば、他のちほーが今どうなっているとか

 他のフレンズが無事でいるかとか

 なんなら、今のこの状況も含めて・・・」


 私はビーバー殿の言葉にゾッとしました。彼女たちがどこか違い始めていると思えて。

 この時私は初めて此処がヤバいのではと感じ、皆で一度ハウスを出ることにしました。


 ちなみにですがその際、湿気でハシゴが滑るから気を付けるよう促したものの、思えば二人とも水場の娘なので特に問題ありませんでした。



 夜の中、ハシゴを下りる途中で私は──

「二人に共通して起こっている事」が何なのか思い当たった


  "気にならなくなっている" のでは...?


 ・カワウソ殿は興味事に対して

 ・ビーバー殿は心配事に対して


 私の予想に、降り終えた二人が答えます。


「プレーリーちゃんの言う通りかも。でも私は心配の面は大丈夫、ジャガーちゃんや他の娘たちがどうしてるか気になってるよ」


「オレっちも多分、心配事だけ薄れてるっス・・・」


 二人の様子から、きっと "性格上での個性" が働かなくなってるのだと思いました。


「ところでプレーリーちゃんは、自分に気になることはないの?」カワウソ殿が聞いてくる。


 あってもここでソレに気づくのは難しい



──と思ったのだけど、私は「ある事」を思いだした。でもこれは自分に対してではなく、カワウソ殿と会う前に感じたあの "違和感"。


「トンネルが、無いであります...」


 ここを行き来するため地面に掘った通路・・・それが、早朝の時から見当たらなかったのです。


「あれっ 確かに無い気がするっス・・・」

「そういえばプレーリーちゃん泳げないし、道や橋がないと困る...どこにも無いよね??」


 しかも地下通路はハシゴ付近に掘った。それが間違いなく消えている。

 ついでにビーバー殿が自信無さげなのは、単純にそれを普段使っていないから。


 夜の下、星は見えずいまだ霧は深い。


 いよいよとても不安になり、私たちは霧を抜けるため一度ここを離れることにしました。

 ちなみにこれは夢じゃない。ほっぺ痛かった


「とりあえずジャングルおいでよ、意外とここから遠くないからさ!」


 カワウソ殿の提案に従い、私たちは先導してもらう形で湖を行くことにしました。


 私はビーバー殿の背に乗せてもらい、二人が泳ぎだす。どうしてか少しだけ寂しさを感じ、ログハウスを振り向きつつこの場を後にしました。


 ところが泳いで三分も経たないうち、私たち全員にとんでもないことが起こる


「あれっ カワウソさんを見失ったス!?」

「いやこれ、今のって...」


 ビーバー殿が泳いでいると、なんと前方のカワウソ殿が消えたのです。霧に飲まれるとかではなく、本当にパッと。しかも驚くことに──


「あれ?ここってさっきの・・・」


 目の前、つまり進んだ先に再びログハウスが現れたのです。

 先ほどの場所で間違いありませんでした


「ちょっとビーバーちゃん!」


 私たちが困惑していると、何故かカワウソ殿が後ろから泳いで来た。追いかけていたはずなのに。

 彼女は首のところまで身を水に浸からせる格好で、さらに言葉を続けました


「どうして私から離れちゃうの!?

それと驚かないで聞いて欲しいんだけど、此処が "こはん" じゃなくなってる!」


 私も含め、みんな言ってることがメチャクチャだった。だけど一つこれだけは言える。

 フレンズはウソを付けない


 つまり、みんな言っていることは事実。

ですがこれだとてんやわんや、一度ハウスのある小島へ皆で戻り、水を飲んで落ち着くことに


   ┈┈ 🌑


 まずカワウソ殿に起きた状況を纏めた


・進む先では霧が薄れていた

・そこはジャングルの、覚えがある場所だった

・何故か急にビーバー殿が踵を返した


 3つ目についてですが、私たちは引き返してなんかいない。でもカワウソ殿は間違いないと言う。


 一方、私たちは先ほど述べましたが纏めるとこう


・カワウソ殿を追っていると急に姿が消えた

・進んだ先に、後にしたはずのハウスが見えた


 こちら視点だと此処をループしている。そしてカワウソ殿の行けた先はこはんではない。

 そんな彼女が驚いた顔で言いました



「だから、二人とも分かってないの・・・?

もうすぐ霧を抜けられそうなのに、急に来たところを引き返してたんだよ!?」


 もう、ワケが分かりませんでした


 ですがこの後の調べで、私とビーバー殿の方が "無意識に" 引き返している事が分かりました。

 カワウソ殿が手を引けど、どうしてもするりと抜けてしまうんだという。


 先の "気にならなくなっている" 件もそうですが、どうやらこの霧か空間が "無意識" を操作しているらしい。

 思えば早朝にカワウソ殿が通り過ぎようとしたのも、すでに無意識を操られていたのでしょう。


 しかもこの空間、それだけじゃない


「そういえばカワウソさん、此処ってジャングルちほーになってるっすか・・・?」


「うん、来たときから何か違和感あったんだ。このログハウスの場所、そのものが移動してるよこれ」


 カワウソ殿の言葉はとても信じられないものですが、今の状況からそうとしか思えませんでした。


「プレーリーちゃんとビーバーちゃん、霧に閉じ込められてる状態だよね...」


 そういう事になる。

しかも早朝にあったカワウソ殿の件から、私たち二人以外はさっさと通り過ぎるよう促されている。



 改めて纏めさせていただきます


・ここでは "無意識" を操られる

・それにより私とビーバー殿が外に出られない

・逆に私たち以外は外へ動かされる

・霧に包まれたこの空間自体が移動してる


 ただ、どんな拍子に此処が移動しているのか、今は分からない。

 それと今さらですが、この場にカワウソ殿が居てくれたことが "功を奏した" 内容です。



 思えば私が穴を掘り進む行動を取れれば、また結果は違ったでしょう。ですが先の二人と同様、その発想に行き着くことができませんでした


 何かに気づきだしてはいるものの、それ以上の答えに辿り着けない。

 そもそも意識がそちらへ向かなくされている



 仕方がないので私たちは、再びハウスへ戻って一夜を過ごしました。


「私が一度外へ出て皆に助けを呼ぶよ。

大丈夫、きっとハカセ辺りが何とかしてくれるはずだから!」


 次の日、そうカワウソ殿は言い残して一度この空間を脱出しました。


 そして彼女が再び現れることはありませんでした。私たちが見捨てられたとかではなく、この場所が何処かへ移動したのだと思います。


   ┈┈ ✨


 貴方が幼い日、行き慣れたはずの草むらや森のひみつきちとかありませんでしたか。

 ふと気まぐれ気分で、よく通うけども目に付きにくい場所へ貴方は足を踏み込む。


 すると覚えのない物を発見した経験はありませんか?例えば "古小屋" だったり "変な石のオブジェ" だったり。


 それはきっと、今回私たちに降り掛かったこととよく似た現象がその付近であったのでしょう。


 言うなればここは、霧に乗って各地を漂流する空間。


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よとぎりせ くろかーたー @kurokata

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