第16章 すれ違う気持ち

まただ…。凛と翔太が話してる。

ただ、それだけなのに不安な気持ちが日に日に大きくなっていた。仕事の話かもしれない、でももしかしたら…。そんなことを考えてしまっている自分にも嫌気がさしていた。それが徐々にわたしと翔太の関係をも侵食していった。翔太は相変わらず、凛を含めた以前の同僚と会うとき以外は必ずLINEをくれたし、愛してると必ず伝えてくれていた。でも…。どうしてもみんなと会ったときは、LINEがきて返信しても既読がつかず、その後は「おやすみ」とLINEを最後に寝てしまうことが多かった。わたしは、少しでもいいから話したいと伝えたが、翔太は困ったように「次の日仕事だと準備があるしね」と答えた。そんな小さな不安が徐々に降り積もっていた時だった。

仕事中自動販売機でコーヒーを買い、自分のデスクに戻ろうとすると、ふと凛が目にはいった。凛がなにかをみてる。わたしはその視線の先を目で追った。その視線の先には…翔太がいた。そして、もう一度凛に目線を戻すとお互い目があった。そっか…。やっぱりそうなんだと思った瞬間、凛がわたしから目を反らし、パソコンに目線戻すとそのまま仕事に戻っていった。わたしは動けなかった。そして、その確信がわたしの心を不安の闇で覆い尽くしそうになっていた。

「なに、ボーッとして…。何かあった?」はっと気がつくと、杏がわたしに声をかけてきた。わたしはすぐになんでもないと答えると、自分のデスクに戻っていった。


気持ちの整理がつかないまま、翔太と会っていると、

「みんなで泊まりで温泉に行く事になったんだ」

突然そう話し出してきた。

「え?」

「来週の土日で。みんなで行く事になったんだ」

「いつ決まったの?」

「…2週間前」

「なんで言ってくれなかったの?」

「言えなかった。」

「凛もいくから?」

「…うん」

頭が真っ白になった。わかってる。翔太にとっては友達…でも、凛は。

その瞬間自分の気持ちが制御できなくなった。

「ひどいよ!どうしてもいくの?普段会うことだって不安なのに。泊まりなんてやっぱりやだよ!」

そう言うと、

「わかってるよ!でもほんとに凛はただの友達だよ。それに2人で行くんじゃないし…。そう言われると思ったから言えなかったんだよ!」翔太も少し苛立った様子でそう答えた。

違う…そうじゃない、なんでわかってくれないの。その気持ちが心の中を支配していた。涙が止まらなくなった。それをみた翔太は「…ごめん」と小さな声で呟いた。わたしは黙って自分のバックを手に取ると、そのままその場を離れた。翔太は追いかけては来なかった…。

泣きながら外に出たわたしは、自然といつのもカフェに足が向かっていた。


カラン。いつもの音だった。わたしは半分泣いた顔でなにも話すことができないままカウンターに座った。マスターは少し驚いた様子だったが、なにも言わずいつものカフェを作り始めた。わたしも黙って、マスターが作るカフェを見つめていた。

「はい。どうぞ」優しい声で、わたしの目の前に作りたてのカフェラテを置いてくれた。まただ…。泣いてしまう。そう思った瞬間涙が止まらなくなった。

不安だった、寂しかったそれを分かって欲しかった。なんで?どうして?わかってくれないの?

その感情がわたしの心を支配した。そんなことを考える自分が大嫌いだった。

少ししてわたしの涙も落ち着いた頃、マスターは黙ってわたしの話を聞いてくれた。

聞き終えた後、

「愛が深ければ深いほど、辛い気持ちも連れてきてしまいますね」

「嫉妬している自分がほんとに嫌で…。自己嫌悪になります」

「もちろん、嫉妬しないでいられたら楽ですけど…わたしは人間らしい感情だと思いますよ。ただし、その感情に飲み込まれないように。嫉妬は怪物ですから」

そう少し微笑んでマスターが言った。

「難しいですね」わたしも少し微笑んで答えた。

お店を出ると、さっきまでは気づかなかったが、夜風は秋の装いを見せ始めていた。ふと、スマホを見ると翔太からLINEがきていた。

「ごめん。愛してる」

わたしは「うん。愛してる」と返した。それしか返せなかった。その言葉しか返すことができなかった。わたしは軽くため息をつくと、家に向かって歩き始めた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつか、またあなたに会いたい 詩い人 恋華 @shizuru-re

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ