有明はると宮村春樹
有明はる。
最初に彼女に触れたのは小5の頃に見たドラマ「空に翔ける広報官」だった。航空自衛隊を元にしたドラマの撮影で駐屯地に訪れたディレクターの女性、ユカリと、交通事故で足を怪我した元戦闘機乗りの青年、アオイ。2人の恋の物語。空に憧れた彼と彼女の物語。
子供ながらとても面白いドラマだと思ったし、2人の関係性は見ていてとてもドキドキした。
ドラマは大ヒットし、ユカリ役の女優もアオイ役の俳優も、この「空に翔ける」で一躍有名になった。
中一の頃、図書室で「空に翔ける」の原作小説を見つけた。
そこで初めて原作が小説だったことを知り、それと同時にこの「有明はる」に興味を持った。
「この人は一体他にどんな物語を書くのだろう。」
その場で「空に翔ける」の原作小説と、有明はる唯一の長編シリーズである「図書館物語」の第1作目を借りた。
本は普段から沢山読むタイプでは無かったが、学校の休み時間や家に帰ってから寝るまでの時間にのめり込んで読んでいった。
躍動する主人公たち、美しい文章。一体次にはどんな展開が待っているのだろう。期待を膨らませてページをめくる。
思えば、あれが読書好きの第一歩だったのだろうと思う。
あの日、始業式が終わって友達との約束もなかったし、暇だったから有明はるの本でも借りようと図書室に行った時。
あ行の本棚で「有明はる」の名前を探していた時にその子はやってきた。
おれと目が合った瞬間、バタバタと手に持っていた本を落とす。そんなにびっくりしなくても良いだろ、と思った。
でも、その子が持っている本の表紙を見てびっくりした。有明はるの「図書館」シリーズの3作目と4作目。「海の街」、「空の色」、「森の中」。
良い趣味してる。
「おれも好きだよ、有明はる。」
おれがそう言うと、その子は話しかけられると思ってなかったのかあたふたしていた。落ち着きないな、この子。
「好きなお話教えてよ。」
おれがそう言うとその子はそそくさと手に持っていた本を「有明はる」の棚に戻しながら
「『図書館』シリーズと『特急電車』が好きです。」
と言って踵を返した。
え、もう帰っちゃうの。もっと話そうよ。
「それじゃあ、」
その子は早足でおれの前を去る。
待ってよ、と心の中で叫ぶ。
おれ、今クラスでハブられてるから君みたいな話の合う子が"欲しい"んだ。
でもちゃんと弁えてる。嫌われないように、言葉を選ぶ。
「俺も『図書館』シリーズ好き。じゃあね。」
その子は振り向いて少し笑う。
当たり障りのないことしか言えなかったし、
"また話そう"
この言葉は声に出なかった。
男子中学生2人、サイハテの島にて 神鷹マキ @shinyou0118
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