初めて
「大丈夫?」
かけられた一言で意識が戻る。
「あ、あ、......すま、すみません......」
カミカミで謝罪の言葉を述べつつ足元に散らばった本を拾う。
我ながらダサすぎる。
屈んで本を拾っていると、ふと視界にその人がしゃがんでいるのが映る。
「有明はる、好きなんだ?俺も好き。」
本を拾っている俺の顔を覗き込むようにしてその人は言う。
顔が紅潮して行くのがわかる。体が熱い。
え、マジ?この人今、有明はる好きって言った?え?好きということはどんな話の内容か知ってるという事だ。マジか。こんなベタ甘恋愛小説家の本何冊も借りてるとかマジバレたくなかった。最悪だ。
そんなことを思いながら本を拾って立ち上がる。
「ねえ、君はどの話が好き?俺も有明はる好きなんだけど男子で読んでる人初めて見たから、気になっちゃって」
にへら〜と笑いながらその人は言う。
うわ....この人の笑顔めちゃくちゃ良いな...なんて思っている暇はない。早く口を動かさねば。
「『図書館』シリーズと、『特急電車』ですかね。」
早く声を出そう出そうとするせいで、若干早口になってしまった。恥ずかしすぎる。
「それじゃあ、」
そそくさと本を棚に戻し、図書室の入口へと踵を返す。帰りたい。ボロが出る前にこの人の視界から消えたい。こういうのは慣れてない。
「もう帰っちゃうの?せっかくなんだから話そうよ。俺も後輩の友達欲しいしさ。」
後ろから声をかけられた。いや、もう、勘弁してください。マジ、心臓止まりそうなんです。
「用事、あるんで。」
その人の方を振り向いて、必死に言葉を絞り出す。
その人は、そっか。と言ったあと、
「俺も『図書館』シリーズ好き。じゃあね。」
と手を振った。
思わず口元が緩む。
この人も『図書館』好きなんだ。
「さよなら。」
今できる精一杯の笑顔で挨拶をする。
好きになった人と好きな本が同じ。
図書室を出たあと、ルンルン気分で廊下を歩く。
しかし、どうやら弾んだ心はめちゃくちゃ表情に出ていたらしく、下足箱前に差し掛かった時同じクラスの坂本に半笑いで「めちゃくちゃニヤけてるけどどうした?」と聞かれた。
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