第81話 蛟の王女の涙

息咳きって、現れたのは、陽の元の国の蛟の姫。紗々姫だった。同じく政の利用の為、いいように利用され、蛟になったのだが、累とは境遇が全く異なっていた。紗々姫は、自分の身の上を悲しんではおらず、三華の塔で、妖物達を相手に育った為か、むしろ、楽しんでいた。また、容姿は、累とは全く異なり、類の様に腕が、何本もある訳でもなく、人間の形に近かった。

「殺してはだめ」

紗々姫は、鉄格子の間から手を差し伸べた。

「彼は、あなたを傷つけない」

紗々姫の両手が、累の顔を包む。

「中から、私達を入れてほしい。恐れる事はない。誰も、あなたを傷つけるつもりはないの。そこが好きならいてもいい。ただ、私と同じ蛟なら、力を貸して欲しいの」

累は、紗々姫の手を鼻先に近づけると、そっと匂いを確認した。

「あなたは、私と同じなの?」

紗々姫は、累の目が不自由な事は、知っておきながら、優しく微笑んだ。

「遠い親戚のようなものよ」

累の興奮が治まり、長い尻尾が地に落ちてきたので、ようやく、青嵐が口を開いた。

「どうして、ここに?」

「青嵐を助けに行けって。皇宮から、累を連れて逃げよと」

「瑠璃光が?」

紗々姫は、そっと頷く。

「青嵐。ここから、彼女を連れて逃げるわよ」

「逃げる?彼女を連れて?」

青嵐は、風蘭に累が憑依する事がないように、身代わりになろうと風蘭の衣装を着ていた。

「風蘭の代わりに、自分に憑依させるつもりでいたわね?そんな事をしたら、誰が、風蘭を守るの?」

「僕が、蛟に憑依されたら、自我を失うと?」

「あなたは、まだ、無理よ」

紗々姫は、神に刺していた髪飾りを抜いた。髪を振り解くと、目の前に、純白の蛟が現れる。

「私が、請け負うわ」

「紗々姫」

青嵐は、唾を飲み込んだ。他人が見たら、腰を抜かしてしまうだろう。大蛟と真っ白な蛟の2匹が対峙しているのだから。

「どういう事かわかった?」

紗々姫の目は、赤く輝く。

「あなたは、ここにいて、利用され続けるのか、私と一緒に行くのか、選んで」

「私は、ここで、守ってもらう事を約束にいるだけ。あなた達と一緒に行って、私の居場所はあるの?」

「私と一緒なら、あるわ」

紗々姫は、累の前に頭を差し出した。

「私の国にきなさい。面白い仲間達がたくさんいる。この地下より、とっても居心地がいいの」

「成徳は、私に目をくれると言ったわ。この匂いのする人の」

累は、青嵐の衣装の匂いを嗅いだ。思わず、青嵐と紗々姫は、顔を見合わせた。

「光を見る目が欲しい」

成徳は、最終的に、風蘭を生贄にしていたのだ。引き換えに、皇宮を牛耳る能力を得ていた。その他に、一体、どんな犠牲が払われていたのか。

「わかった。考えましょう。さぁ、私と一緒に」

紗々姫は、体を差し出し、累は、受け入れた。

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