第80話 念願の王座に

どんなに、この瞬間を夢見てきた事か。成徳は、瑠璃光とアルタイ国の王の兄弟が亡くなった報告を受けていた。念の為、聚周の様子を探らせると、瑠璃光の遺体に、しがみついて泣いていたとの話から間違いないと確信した。皇宮内に、潜んでいた兵士や成徳に同意していた官僚達が一斉に、王座のある建物に流れ込んだ。

「やっと。やっと、この時が来た」

亡き母親の長年の夢。先先代の皇帝の血を引くのだから、自分にだって権利はある。だが、認められなかった。今、自分の行く手を邪魔していた者達は、いなくなった。成徳は、皇帝の座がある建物の、朱色に染まった長い回廊を歩いていった。見守る誰もが、自分に頭を下げていた。顔色の変わった者。目が合うと微笑みを返す者など、様々だ。一番、間違いない後継者は、自分だ。皆に見守られ皇帝の座についた成徳は、周りを見下ろしていた。

「アルタイ国との戦いで、正当なる後継者瑠璃光が、亡くなった。互いに、相打ちとなった様子だ。弔い合戦と行きたい所だが、これ以上、望まぬ血を流すべきではない。」

アルタイ国の反乱軍と成徳は、秘密裏に、盟約を交わしていた。お互いに、邪魔者を消した時は、王の座に座り、互いに干渉しないと。それは、アルタイ国にとって、一時的な盟約であったが、お互いが狙っていた王の座を手に入れる為、形だけの盟約を交わす事にした。互いに、邪魔な後継者を葬ったのだ。

「まだ、戦いが終わった訳ではない。全軍が、領土に戻ったら、日を改め、即位の儀をこなう」

成徳の側近が、宣言すると、明、うやうやしく頭を垂れるのだった。

「そうだ・・」

こうなれば、もう、あの飾りの風蘭は、いらない。成徳は、小さく呟く。蛟の霊力との引き換えに交わした約束。

「約束通り、目を頂戴」

風蘭の衣装を身に纏っている青嵐に、蛟の姫は、言った。ここは、地下牢。目の見えない蛟の姫は、身を隠す場として、皇宮の地下を与えられていた。監禁されていたのではなく、自ら進んで、この場所に住んでいた。聚周の力だけでは、もの足りない成徳は、蛟の姫を匿う代償として、霊力を分けてもらい、更に、その例として、風蘭の目を与える事を約束していた。蛟の姫の、累は、青嵐の顔に触れていた。何本もある腕が、それぞれ、青嵐の顔に触れていた。

「あなたの命は、私が守るから、お願いだから、目を頂戴」

累は、青嵐の頬を撫でる。

「陽の光を見てみたいの。」

累の目は、空いているが、瞳に力はなかった。長い胴と何本かの腕はあるが、それ以外は、どこにでもいる少女と変わらなかった。どうして、蛟の姫を成徳が連れてきたのだろう。青嵐は、思わず累の手を取った。

「君は、どこから?」

君と言われ、累は、一瞬、体をこわばらせた。

「違う!その声!」

声と共に、累の長い胴が高く天井に跳ね、鉄格子毎、青嵐を地に叩きつけようとした。

「だめ!」

息せき切って、現れたのは、陽の元の国の紗々姫だった。

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