第82話 その日、王座に着く者。
その日、朝早くから、雲ひとつなく、晴れ渡り、成徳は、今まさに、王座に就こうとしていた。皇宮内は、粛清が行われ、成徳の即位に反対する者は、遠く辺境に地に追いやられるか、何らかの罪を着せられて、処罰されていた。ようやくだ。成徳は、弦楽器に合わせて、王座へと続く階段を、一段と上がっていく。1番上に来た時に、周りを見渡してみた。皆、頭を垂れ、平伏している。この瞬間から、長年、夢見ていた冥国の君主となる。アルタイ国の国王まで、消し去る事ができたのだから、国王の叔父からは、熱いお礼が届いていた。これからは、互いの国の利益の為に、働こうではいかと。成徳は、深く息を吸い込み、その長年憧れていた、王座に深く腰を下ろそうとした。
「随分と、緊張しているのではないか?」
傍に控えていた衛士が、急にこちらを振り返った。ニンマリと微笑みを浮かべ、成徳を覗き込む。夜の闇の様に、漆黒の髪が、透き通るように白い肌とよく似合う。
「眺めは、どう?」
もう、傍の衛士も、声をあげる。顔こそは、よく似ているが、髪は、銀色に輝き、一眼で、人ではない事が見てとれた。
「まさか?」
成徳は、2人の顔を見合わせて、口をパクパクさせた。
「生きて?まさか・・・聚周は、半狂乱になっていたと・・・」
王座に腰を下ろす訳にはいかず、中腰になり、成徳は、口をパクパクさせる。瑠璃光と紫鳳は、相打ちになり、死んだのではなかったのか?
「しっかりとした証拠が必要だったんでね」
腰に刺した剣を抜くでもなく、紫鳳は、腕組みしながら言った。
「皇帝には、ならぬ。・・・が、認めてない奴が、座るのは、困る」
「相変わらず、わがままだな」
紫鳳は、瑠璃光に言った。
「皇帝より、鬼神になりたいそうだ」
「半妖の血が、皇帝に合うわけがない」
瑠璃光は肩をすくめる。
「く!」
手の届く場所にあった紫鳳の剣を抜こうと手を伸ばす。
「まあ!待て」
紫鳳の翼が、飛び出し、成徳を椅子ごと、転落させる。
「こら」
瑠璃光は、嗜めるが、右人差し指と中指を額に当てますると、口の中で小さく呟く。青白い炎が浮かび上がると、同時に、手首を回しながら、まっすぐ正面に振りかざす。一直線に伸びた、炎は、官僚達の間を抜け、閉じていた皇宮の門に突き刺さる。光が縦に走り、門が割れると、馬のいななく声が上がった。
「何と!」
なんとか、体を庇った成徳が、光の方向を見た時に目にしたのは、破壊されたかの様に、大きく開いた門から飛び出る3頭の馬の姿だった。その先頭に、あのアルタイ国の国王が、長い髪を風に靡かせ、真っ直ぐにこちらに、向かって馬を走らせていた。後に続くのは、弟のロッシ。そして、聚周の姿だった。
「期待させて悪かったな」
紫鳳は、成徳の肩を叩いた。
「確かに半妖かもしれないが、相手は、龍神だからな」
「くそ!」
成徳の顔が、二つに裂けそうになるのを紫鳳は、みた。真っ赤になりながら、ひたいのあたりから鱗が生えていく。
「結局、その力を借りるのか・・」
瑠璃光が、再び印を結び、成徳に両掌を突き出す。
「今までとは、違うぞ。この地下に何があると思う?力は、尽きずにここに集まってくる」
成徳は、地下に何か、霊力の塊があるかのように、両手をかざす。だが、その絵用とした能力は、どこに消えたのか、急速に、衰え始めていた。
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