第60話 真実の皇帝は、龍王

アルタイ国が侵略してきた一報や陽の元の国の来襲の知らせは、皇宮を混乱に陥らせた。成徳の術で操られていた風蘭は、解毒こそ出来たが、先陣を切って、兵を引き連れて出陣する体力はない様子で、床に伏せていた。それでも、状況を聞くと、鎧を身につけ、出陣すると言い張る。聚周に、術枷を解かれた瑠璃光は、風蘭が着るはずだった皇帝の鎧を着込んで、風蘭の前に現れていた。

「これから先の事は、ゆっくり考えればいい」

「操られていたとはいえ、私は・・・」

「解毒は済んでいる。国が無くなってしまえば、争っている暇もなくなる。この続きは、また、後で」

部屋の隅で、小さくなっている成徳に声をかける。

「一番、望んでいない結果になったな」

「仕方がない選択で、歯痒い思いだが、仕方あるまい。国がなくなれば、座る玉座もなくなる」

「なくなるだけでなく、高官達は、間違いなく死刑だな』

瑠璃光は、笑う。

「私とて、好きで、こんなのを着ている訳ではないが」

正当な皇帝の着位を知らせる必要があった。

「魔導士ではなく、皇帝にお使えします」

聚周は、片腕の将軍として出陣する事に満足していた。仇として、追いかけ、瑠璃光を手に入れることに執着していたが、自分の存在を認めてもらい、一緒に戦場に立てる事に、満足し、天にも昇る気持ちだった。自分が、求めていたのは、瑠璃光に相棒として認めてもらう事だったのだ。

「青嵐。後は、頼む」

青嵐は、頷くと風蘭の護衛らしく、部屋の外に出た。成徳とすれ違い様に、きつく睨みつけると、チッと口を鳴らした。隙あれば、蛟の精ごと、浄化の炎で空き尽くすつもりだった。

「老耄が・・」

青嵐は、荒々しく扉を閉めた。

「では、瑠璃光」

紫鳳は、龍神に返したはずの剣を持ってきていた。

「これを」

使う者を守るという青龍の剣だった。

「ふむ。どこまで、効力が合うか」

「えぇ・・・アルタイ国にも、強力なシャーマンがいると聞いています。なんでも、100年以上は、生きているそうな」

紫鳳は、両手をあげた。

「その話から察するに、私と同じ類かも」

「かもな」

室内を瑠璃光は、ぐるっと見回す。

「紗々姫は、先に出たようだな」

陽の元の国の軍は、紗々姫の加勢に来たのだが、結局、紗々姫と合流しアルタイ国と対峙する為、本陣に真っ向から攻め入るつもりだった。

「真っ向から?」

打ち合わせの時に青蘭は、引き留めたが、瑠璃光は、紗々姫の提案通り、正面からの対決を認めた。

「何を連れて来たのか、楽しみだな」

瑠璃光は、笑みを浮かべると、聚周と紫鳳に合図した。

「いくぞ」

本物の皇帝が先陣をきって、出陣する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る