第59話 草原の大地の王。シン・リアク

風蘭という傀儡の皇帝の国、冥の隣は、砂漠と草原の2つの国が隣り合っている。砂漠の国は、商人の国で、香辛料や織物、輸入の珍しい物を扱い、それなりに潤っていた。だから、それまで、争う事もなく、冥国とは、友好的に過ごす事ができていた。だが、そのもう片側、草原の国とは、争いが絶えなかった。国境位は、いつも、軍を互いに起き、お互いに、様子を伺い緊張が高まっていた。冥国には、名高い魔導士や、龍神がおり、何かと術師の存在が、噂になっていた。草原の国、アルタイ国にも、シャーマンが多くおり、皇室にも、冥国と肩を並べる力のある者がいた。ただ、アルタイ国にあるのは、草原と放牧された馬や牛だけで、国土は、痩せており、資源は何もなかった。それに比べ、冥国は、龍伝河を中心に肥沃な土地に恵まれ、また、鉱産物にも、満ち溢れ、民は潤っていた。貧しさの為、逃亡する民もおり、隣国の冥国に難民として流れ込み、対応に頭を悩ませていた。アルタイ国は、何名かの諜報員を送り込み、内情を調べ上げ、攻め入るタイミングを狙っていた。それが、今回、皇軍が龍伝河に向かい、妖との対決に負けた上、皇帝が女性で、しかも嫡子でない事が露見してしまったのだ。この機会を逃す訳にはいかない。

「兄上・・」

ロッシ・リャクは、中央の座に座る兄を見上げていた。兄と呼ぶのを躊躇うほど、シンは、神々しくそれでいて、荒々しくうつくしい。体を縁取る線は、太く、顔は堀が深い、木彫りの人形の面の様に、深い顔に、埋め込まれた瞳は、薄い灰色だ。髪は、長く、ウェーブがかかり背中まである。闘いの神と、兵士達は崇めている。弟のロッシは、兄を憧れの眼差しで見ていた。同じ父親を持っていたが、母親が違うだけで、こんなにも、容姿に差があるのが、恨めしかった。ロッシっは、まだ、若いせいか、痩せて、埃と砂だらけで、髪も赤く血じれている。

「このまま、外壁から一部の兵を送り込むが、もう、一つの兵は、反対側、一番、守りの硬い、箇所に私と兵が攻め込む」

「待ってください。兄上、今は、危険です」

「かなり、混乱していると聞いている。向こうは、統制が取れていないと聞く。私には、無理かな」

シンは、ロッシに笑いかける。国境近くに張った天幕は、幾つもあり、その奥の1番大きな天幕に、兄弟2人で、打ち合わせしていると、天幕の入り口が開いて、太い杖に身を任せた老女が、やっと歩いて現れた。シャーマンとして、シンやロッシが、一眼を置いている中の1人であった。名を、パウダと言う。

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