第55話 瑠璃光、舞を披露する。
風蘭は、細く裂かれた菖蒲で身体を動かぬように固定され、神泉の中央に居た。薄い肌着一枚で、神泉に身を置く姿は、何とも、エモい後継であったが、誰も、そんな事は気に留めず、神妙な顔をしていた。瑠璃光の姿があまりにも、神々しく、さもすれば、若い青嵐あたりは、風蘭の姿に目を奪われそうであったが、それ以上に紅を刺した瑠璃光の姿が美しかった。これから、風蘭を長年苦しめた蛟の解毒を始め、術をかけた大元の、成徳諸共払うと言う。瑠璃光の意を決した様子が分かるほど、いでたちは、恐ろしく神々しかった。
「何とまぁ・・・」
最初の静寂を壊したのは、紗々姫の甲高い声だった。
「我が君の美しい事」
これが、本当の星暦寮の主、もしくは皇帝の姿ではないだろうか。紫鳳は、しばらく自分の主人の姿に見惚れてしまった。戦いの場にいる人ではない。
「どうか、このまま、皇帝の血を引く者として、玉座に着かれては?」
紫鳳の言葉に
「お前のいる意味がなくなってしまう」
「側近として、仕えますぞ」
瑠璃光は、笑い、韻を踏みながら、舞を始めた。唇から低く、溢れる歌は、風に舞い、荘園の中を流れていく。作業をしていた奴婢達は、顔を合わせ、主人が戻ってきた事に気づき、微笑み合う。
「きっと、この薬草園の持ち主は、戻ってくるから、それまで、大事に続けて」
星暦寮の女主の薫衣は、口癖の様に言っていた。瑠璃光が、舞を踊るとどこからともなく、風が吹いてきて、桜の花びらが舞い始めた。
「桜か・・・」
紗々姫は、風に踊る桜に見惚れる。桜吹雪の中で、瑠璃光は、舞い、扇子を振り広げると、聖酒であたりを清めた。
「初めてみる」
紫鳳は、瑠璃光によく似た、目を細め、この世のものとは、思えない舞を見ていた。韻を踏む舞は、激しくも優雅に、目に映る。
「ただの、舞ではないな」
解毒し、成徳を引き摺り出す為の、舞。神仙に使っている風蘭の様子も、次第に変わっていく。眠りに着くかのように、目は焦点定まらず、肌は、鮮やかなピンク色に染まっていく。次第に、体の奥から、細かい震えが伝わり、震えはじまた。震えは、細かい震えから、今は、激しく前後するまで、揺れ始めている。
「危ない!溺れてしまう!」
青嵐が、慌てて救い出そうとするが、紫鳳は止めた。
「待て!これからだ」
「その間に、風蘭が死んでしまう!」
紫鳳が、青嵐を止めに入った瞬間、瑠璃光が、何かを投げつけるのが目に入った。
「!」
瑠璃光の放った扇子からは、香のいい粉が、風蘭めがけて、浴びせられた。
「何を?」
目を凝らしてみると、半身にたっぷりと香を被った風蘭の姿があった。
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