第54話 輝く玉座を自分の手に

成徳は、聚周と共に皇軍を引き連れて、皇宮に戻ってきた。先代の皇帝の時代から、長く宦官として皇帝に尽くしてきたが、身を挺しても、何も報われない事を知った。広い大陸には、人間の力を超える存在がある。長い間、手の届かない皇帝の座に、人ではない者が座る事を知った時、計り知れない思いがあった。人ではない者に、この国の中心を任せてはいけない。だが、非力な自分には、何も、できない。相手は、まさしく皇帝の象徴とも言える龍神の血を引く皇子である。龍神に勝つ術を探していた時、皇宮の中の星暦寮にある書簡で、蛟の存在を知った。龍神に対抗し、蛟の力を得、蛟の悪行を全て、龍伝河の主達に、なすりつけ、評判を落とした。あとは、簡単だった。瑠璃光に嫉妬する聚周に、星暦寮の長の座を与え、瑠璃光によく似た幼子を探し出した。先代の皇帝の忘れ形見として、祭り上げ、次第に、蛟の毒に侵していく。最後は、中毒となり、自分の胃のままに動かせる傀儡となったであろうが、計算が少しずつ、狂い出した。風蘭が、女性であった事。瑠璃光に会っていた事。そして、やはり、蛟は、龍神に敵わないって事。

「私だって・・・」

龍神ではない自分に苛立った。だが、蛟であっても、国を支える事くらいできるはずだ。今まで、皇帝の所作、政。全て、側で見ていたのだ。重臣達より、自分が一番、知っている。だが、代々、続く血筋を重んじる重臣達は、先代の血筋を探した。

「先代の側女が、故郷で、産んだ皇子」

それが風蘭だった。幼い時は、面差しがよく似たが、成長した姿は、瑠璃光とは、全く、異なっていた。

「どこまで、行っても憎い奴」

聚周は、苦々しく思っていた。初めて、遠くから瑠璃光を見た幼い日、自分は、舞を踊る瑠璃光の姿を見て、息を呑んだ。誰が、舞台に連れ出したのか、わからないが、扇を手に踊る姿は、誰よりも美しく、目が釘付けになった。それ以来、どこの宮の姫なのか、気になった。皇子と知った時には、恋焦がれた後だった。いつも、瑠璃光を追いかけていた。寒宮に隔離されていると聞いたが、時折、星暦寮に現れていた。誰が、教えた訳でもないのに、術が使えるという。星暦寮の菅主でさえ、瑠璃光を手に入れたがった。本人は、望まないのに、周りが瑠璃光の人並み外れた能力に惹かれていく。聚周の嫉妬する気持ちは、いつしか憎しみに変わった。手に入らないのなら、自分の手で、壊してしまおう。誰の手も届かない存在を自分が、壊してしまう。思いっきり、辱めてもいい。成徳の狙う玉座は、興味はない。瑠璃光の命を、あの澄ました顔をズタズタにしたい。深く、恐ろしい思いだけが募っていく。

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