第47話 蛟の姫、降臨
「え!」
振り向いた瞬間、紫鳳は、息を呑むと同時に、硬直した。やはり、蛇は嫌いなのだが、主人を危機から救う方法の一つだと、言われると邪険にできなかった。
「ちょっと!」
瑠璃光の様子を見るなり、紫鳳にくってかかった。
「このばか鳥!私の瑠璃光になんて、事を」
頭から湯気が出そうな勢いである。余計に紫鳳は、後ろに引いた。
「来たか・・・」
瑠璃光は、寝台を背に、やっと息をついている様だった。
「一瞬の隙だった」
「そのようね」
紗々姫は、辺りを見回した。
「随分と、埃くさい部屋でのお出迎えね」
紗々姫は、鼻先を着物の袖で、覆った。
「幼少期を過ごした部屋だ」
「そお!」
紗々姫は、指先で、あちこちの家具を、触れ様とし、紫鳳に止められた。
「応急処置を」
「そうね」
袂から、解毒薬を出そうとして、寝台の上の風蘭にようやく気がついた。
「これは・・・・」
男性なのか、女性なのか、判断に困る。わかるのは、蛟の性が、体内にあることと、その影響で、瑠璃光が毒に侵されていると判断した。
「ふうん」
紗々姫は、腕を組む。
「少しずつ、蛟になりかかっていたのね。きっかけがあって、術が発動した。それは、我が君。瑠璃光かしら?」
瑠璃光は、冷たく笑った。
「同じ者、同士ならわかるか?」
「失礼ね。私は、小物じゃないわ」
小瓶を瑠璃光に渡す。
「一時凌ぎでしかないわ。根源を絶たなければ、解毒できない。」
「根源とは?」
紫鳳は、聞く。
「そこよ」
胸騒ぎがするのか、意識を失っている風蘭を指す。
「きっと、瑠璃光を解毒しても、繰り返すでしょう。長年、蛟の性を飲まされていたのでしょう。根本的に払わないと・・・ね。鳥さん」
微笑まれて紫鳳は、固まった。
「まさか・・・」
以前も、似たような事があった。毒に侵された高官の経絡に、紫鳳の羽を刺し、瑠璃光が香の魔導術で払ったのだ。だが、今回は、瑠璃光は、使えない。
「炎の術手は・・・」
宙を泳ぐ目が、一斉に、瑠璃光の目と一致した。
「青嵐」
瑠璃光は、一枚の紙を取り出すと、乾いた筆で、文字を書き上げた。
「召喚せよ!」
紙札は、ぽっと、炎をあげて、一瞬のうちに、炭になった。
「いてぇなー」
地に炭が落ちると、同時に、青嵐が、足元から姿を現した。
「あれ?紫鳳?お?」
慌てて、くるくる周りを見回し、紗々姫と、目が合うと、慌てて、後ろに後退する。
「そうそう、慌てるな。助けを呼んだのだ」
足元から、頭の上まで、青嵐は、何度も見下ろすが、どこから見ても、大陸の女性ではない。見覚えのある佇まいは、陽の元の姫だった。
「いつの間に・・・・?どうやって?」
「我らと似た様な者だ」
「似た様な者かのう」
ニンマリと笑う口元が、妖のものを匂わせた。
「さあ、いくかえ。まずは、そこに、眠る子かね」
紗々姫は、衣服を剥ごうと手を差し出して、瑠璃光に止められた。
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