第48話 生まれながらの穢れなき姫

風蘭の着てる衣服を剥ごうとした紗々姫は、ハッとして瑠璃光の顔を見下ろした。

「これは、どういう事?」

衣服を剥がなくても、その体つきを見ればわかる。術に侵された身体からは、鬱々とした邪気が、流れ出ているが、丸みを帯びた体つきや、こんこんと眠り続ける横顔は、どこにでもいる若い娘のそれだった。

「女性」

そう呟くと、振り向いた顔は、怒りに満ちていた。

「じょ・・・・女性が絡んでいた?私がいない間に、女のせいで?死にそうになった」

瑠璃光は首を振った。

「殺すな。まだ、死んでいない」

「だけど・・・この子は」

紗々姫は、言いかけて首を振った。

「長い間、邪気を植え付けられていて、元に戻れないかもしれない」

「その為に、君を呼んだ」

「私でも、できない事はある」

紗々姫は、紫鳳を、床に座るように、手で合図を送ると、背中から幾つもの羽を抜いていった。

「元々、蛟の精は、大陸から来たものと聞いているけど、陽の元の国と、大陸の蛟の対処法が合うか、どうかはわからないの。どこにでも、龍神がいるように、蛟も、存在する。だけど、現れる形が違うように、対処方法は、変わる」

何本か、抜き出した羽の中から、より細く長い物を選び出し、瑠璃光の身体の経絡に沿って、刺していく。

「瑠璃光なら、わかるわね。私の知っている方法は、陽の元のやり方だって」

瑠璃光は、頷いた。

「解毒方を処した漢薬書は、未だ、行方がわからない。対処療法で、やってみるしかない」

紫鳳の羽は、針の様に、瑠璃光の経絡に沿って、刺さっている。

「次に何をするのか、わかる?」

青嵐は、皆の目線が自分に集まったのを感じ、前に進み出た。

「出番か」

「そうだ。。。頼んだぞ、青嵐」

青嵐の操る炎は、勢いはなく、静かに燃え上がる炎だ。掌で、細く渦巻き、天井まで、上がり、やがて、瑠璃光の経絡に刺さった羽根へと燃え移る。激しさは、なく、静かに、燃え上がるというより、氷結していくかのように、羽先から、先端へ。静かに身体の中へと入っていく。

「うっ」

苦しいだろう。瑠璃光は、言葉を発する事なく、表情は、歪んだ。下を向き、堪える姿に耐えきれず、紗々姫は、顔を背ける。

「お前のせいだ」

耳まで、口が裂け、憎々しく、風蘭に向かい呟く。

「何故、こんな目に合わせた」

「紗々姫!」

紫鳳が、怒りをぶつける紗々姫を宥める。

「瑠璃光が選んだ。俺と変わる事も拒んでいる」

瑠璃光の経絡からは、紫の細い煙が上がっていく。額に粒の汗が浮かんだかと、思うと、瑠璃光は力つき、床に倒れてしまった。

「瑠璃光!」

青嵐も紫鳳も慌てて、抱き上げ、寝台に、横にする。

「忌々しい」

風蘭と同じ寝台に横たわるのを、紗々姫は、嫉妬の目で見つめる。

「しばらく、ここで様子を見よう」

紗々姫を宥めるように、紫鳳は、言うのだった。

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