第42話 傀儡の皇帝、風蘭
「誰?」
スッとした声が聞こえ現れたのは、風蘭だった。声が聞こえるほんの少し前に、風に漂う甘い香りがした。甘くもあり、しつこくもないほのかな花の香り。瑠璃光は、香りに気が付いたのか、ふと、笑みを浮かべていた。
「甘い香のする皇帝なんぞ、聞いた事がない」
窓を覆う、今は避けてしまった覆いをよけ、風蘭が顔を現せた。
「どうして、ここに?」
風蘭は、髪を一つに束ね、寝着の姿のままだった。
「一人なのか?」
瑠璃光と紫鳳の姿を見つけ、驚く風蘭に声を出さないように、指で、口を封じると瑠璃光は、確認した。
「眠れなくて。。。こっそり抜け出して」
「またか。。」
瑠璃光は、ため息をついた。
「勝手にぬけだす癖は、今も変わらないのか。。」
頭を抱えた。
「自覚がない」
風蘭は、したをぺろっと出す。
「ただの飾りなのよ」
「にしても、何人の奴婢が肝を冷やしているか、考えるべきだ」
瑠璃光は、自分の袖に手を入れた。
「朕を帰す気か?」
「当たり前だ。こんな所にいるのが見つかったら、どうするつもりだ?」
「散歩も、できないのか」
「当たり前だ。その座に着くものの責任は、重い」
最初は、瑠璃光の叱られて困った顔をしていたが、隣にいる紫鳳の存在に気づき、話を逸らそうとしてきた。
「兄上。。」
風蘭は、瑠璃光を親しみを込めて呼ぶときは、そう言う。
「隣にいる方は、どなたなの?」
不意に話題が自分に、振りか掛かって、紫鳳は、困った顔をして、瑠璃光を見た。
「こ。。。これは」
式神と言ってしまうのも、紫鳳に失礼な気がした。
「う。。。うん。弟。。。うん。弟」
瑠璃光と入れ替わる事ができるのだから、器である体は、瑠璃光の背格好によく似ている。だが、また、瑠璃光の冷たく他人を受け付けない美しさとは、違い。ほのかに人を温める暖かさがある。見ていると癒される。何とも、不思議な印象があった。
「弟?」
紫鳳は、ゴクっと唾を飲み込んだ。自分は、影でしかないのだが、主である瑠璃光にそう言われて、当惑した。瑠璃光に言い訳させる風蘭とは、瑠璃光とどんな関係だったのだろう。紫鳳は、風蘭を具に観察する事にした。身長も、大して大きくなく、体つきは、華奢で、どうしたら、こんな細い、女子に見える若者を皇帝として、祭り上げる事が出来るのだろう。体が、弱く、月の半分は、寝所で寝て過ごす事が多いという。成徳が、風蘭を寝所に追いやり、政を仕切っているのか。。。自分が、いない間に、王宮も変わってしまった。あのまま、王宮に残り、濡れ衣を晴らせば良かったのか。。。いやいや、自分は、この国の皇帝の座につく事は、望んでいない。薫衣の死と共に消えた漢薬の書を探して、陽の元の国にまで、行ったではないか。瑠璃光は思案した。
「兄上?」
「ささ、体が冷えてしまう。寝所に戻りなさい」
瑠璃光の掌に載せた香に、術をかけようとした瞬間、紫鳳が、叫んだ。
「危ない!」
眩い光が横に走った。瞬間、紫鳳の翼が飛び出し、瑠璃光を身体を包み、光の柱から、身を守ったのだった。
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