第41話 冷宮の皇子こそ龍王
瑠璃光と紫鳳が降り立ったのは、他でもない王宮の中だった。人気もなく、寂れた東の奥に、忘れ去られた瑠璃光の御所があった。
「まさか、ここかよ」
宙から飛び出してくるなり、紫鳳は、毒を吐いた。
「とっくに、忘れたかと思っていたんだけどな」
何処をみても、人が住んでいたとは、思えない。天井は、あちこち破れ空がのぞいていた。家具の上には、埃がうず高く積もり、小動物の排泄物に汚れていた。
「戻ってくるつもりはなかったんだけど」
瑠璃光は、華を覆った。
「こうも、時間が経つと、酷くなるもんだ」
指先で、埃の深さを測る。
「得意の術で、綺麗にしたらいいさ」
紫鳳が、冷やかすと冷静に答える。
「嫌。。。ここは、そのまま、埋もれさせておこう」
風に揺れる覆いが、細く裂け時間の経過を告げる。何年も前に、瑠璃光の母親は、ここから姿を消した。幼い瑠璃光を残して。瑠璃光に皇后の姿を重ねていたが、あまりにも、辛く、しまいには、彼と会うことさえ、拒んで逝ってしまった皇帝。瑠璃光が、後を継ぐことは、誰もが、周知の事だったのに、あらぬ疑いで、重臣達が断った。
「瑠璃光の母親は、龍王の妹らしい」
噂に、瑠璃光の術を見たという噂が輪を掛けた。
「空を飛んでいた」
「獣神が現れた」
中には、
「龍神が、現れ瑠璃光を載せていった」
など。ある事や想像にしか無い事が人の口に上っては消えた。
「小さい頃から、才能に恵まれていたんだな」
紫鳳が馬鹿にした。
「好奇心とやらだ。嫉妬もある」
小さく瑠璃光は、呟く。何やら、探すように、部屋の中を行き来している。
「何を探している?」
術で探せばいいのにと、紫鳳は、思ったが、口に出さずにいた。
「あった。。」
探すことを楽しむかのように、見つけ出したのは、小さな木のかけらだった。
「何だ、それは?」
何か、角を丸く削った置物に見える。
「何か、書いてある」
紫鳳が。手に取ろうとすると、瑠璃光は、見せまいと手で隠す。
「おい。。」
ようやく、紫鳳が手に取ると、底に小さく
「弟」
と、彫ってあった。
「何だ?」
「返してくれ」
瑠璃光は、少し恥ずかしそうな顔をして、紫鳳の手から奪い取った。
「誰も、話してくれない。。。迷い込んだ小動物や虫しか、話し相手がいなかったんだ」
「龍王の血を引くんだろう。誰も、助けに来なかったのか?」
「母が、私を産んだ事は、裏切った事。結局、母はいなくなった」
「俺と。。同じか」
紫鳳は、古い社に捨てられていた。瑠璃光に出会わなければ、生きてはいなかっただろう。
「俺に、自分を重ねたんだろう」
瑠璃光は、何も、答えなかった。小さな木の置物を布きれに包むと、大事そうに袖の中に放り込む。
「大きくなったもんだ」
紫鳳の頭を、撫でて、子供扱いする。
「こら!何すんだ」
「まだまだ、子供なんだよ。本当は」
「こ。。このぉ!」
慌てて掴みかかろうとする紫鳳を瑠璃光が手で制した。
「待て!誰か、くる」
「んあ?」
茎の流れが変わり、甘い花の香りになった。
「誰か、いるの?」
現れたのは、風蘭。男装の皇帝だった。
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