第43話 思いは、毒針となって。

「そうそう、頼んでいた事は、うまくいっているかな」

成徳は、聚周に声を掛けた。御車の中にいた、成徳が御簾をあげ顔をのぞかせる。

「それは、お話を頂いた時に」

聚周は、馬の上から、微笑んだ。

「しかと、呪符により金針は、体の中を巡り、心臓を目指していくでしょう。その前に、瑠璃光に接触する機会があれば、金の柱が、瑠璃光を突き抜けているでしょう」

「おや。。。瑠璃光の顔に傷をつける事を許す気になったのでは?」

「傷つけるとは、限りません。そのまま、手に入れればいいのです」

「何とした、執着」

「成徳様こそ」

成徳は、御簾を荒々しく下ろすと、背もたれに寄りかかった。

「うまく、利用できれば、風蘭より役に立つのだが。。。」

聚周は、悪辣な術士であり、瑠璃光と比べて利用しやすい。が、何かが足りない。術の腕も、瑠璃光と比べて格段に差がある。可能であれば、手元に置きたかったが、致命的な欠点が瑠璃光にあった。

「人ではない。妖との子が、皇帝になるなんて、あり得ない」

からである。龍の妖とも言われている。生贄を求める龍王の娘の血を引く瑠璃光を誰が、皇帝の座につけようか。

「残念。。」

だが、聚周のように、影で使わせれば、いいのではないか。

「影になるような術士ではない」

瑠璃光は、その名の通り、光り輝いていた。彼が、影役になる事はない。かといって、瑠璃光を成徳が、抑える事は出来ない。だから。。。

「いい子なんだよ。風蘭は」

成徳自身、風蘭を可愛がっているとは、思っていた。幼い頃に、見つけ出し、ここまで、育て上げた。瑠璃光を、手負いにすべく、聚周の術を仕掛けたが、そこまで、しなくてもとの思いもある。このまま、傀儡としても、十分のはず。

「厄介な術士は、聚周かもな」

ふと、成徳は頭を抱えた。瑠璃光への執着心には、呆れるものがあった。

「奴に、瑠璃光を仕留められるものか。。」

風蘭と引き離し、漢薬の処方書を手に入れる為、瑠璃光を犯人に仕立て上げたが、そんな事以上に、彼に執着し、彼を捕らえる為に、術を磨いてきた。目指すのは、瑠璃光の上をいく術士か、彼を滅した上で、最高の術士を目指すのか。

「そんな事は、どうでもいい」

自分は、影で、皇帝の持つ権力を意のままにするだけ。その為に、自分も、妖に命を売った。

「聚周。。。お前だけが、術を操れると思うなよ」

成徳は、握った掌をそっと開いた。その中では、暗い炎が揺れている。

「風蘭。。。いい子だ。聚周の糸が、解けるように、手伝ってあげるよ」

暗い燃える炎の中に、ぼんやりと風蘭の姿が見えた。瑠璃光の前に立ち、体からたくさんの金の糸を放つ姿は、初めて見る狂乱した姿だった。


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