第39話 皇子の影は、紫の炎
あれから、ずっと瑠璃光を追いかけてきた。星暦寮で、初めて瑠璃光を見た時から、ずっと、気になっていた。追いかけ、星暦寮に弟子入りした頃に、瑠璃光の黒い噂を聞いた。
「妖の子。若い娘達の生贄を要求し、民を恐怖に陥れている龍神の血を引く。皇帝をたぶらかした妖の子」
そんな噂が、聚周の耳に入った。瑠璃光の母親は、それを現す華の様に、たくさんの宮女達を殺して去っていった。幼い瑠璃光を残して。今も、どこにいるかもわからない。皇帝は、不可解な死を遂げ、成徳が遠縁の男子を連れてきたそれが風蘭だった。風蘭は、不思議な子だった。誰も寄せ付けない瑠璃光が、心を許しているように見えた。それが、自分は、嫌だった。自分が、先に見つけた宝物を後から来た風蘭に盗られたような気がした。二人が、並ぶ姿は、絵のように美しく、意識せずには、いられなかった。
「誰からも、好かれている」
憧れは、憎しみに変わっていく。そんな卑屈な心になる薫衣だけは、分け隔てなく優しかった。
「新しい漢薬の処方ができそう」
薫衣は、亡くなる前、何度もそう言っていた。
「これが、あると怪我の治療にも、役立つの。痛みが消えるのよ。ただ。。。気を付けて使わないと。健康な人には、毒になるのよ」
自分にだけ、薫衣が話してくれた。そう聚周は、思っていた。その母親代わりの様な姉の様な薫衣を、瑠璃光が刺した。何もかも、手に入れておきながら、結局、妖の血が、目覚めたのだ。長年、探していた瑠璃光が、今、目の前にいた。寒洞では、逃げられてしまったが、今度は、逃がさない。聚周の手から放った細いいく筋もの糸が、瑠璃光の全身を絡みとった。
「うっく!」
糸に絡まったのは、瑠璃光の細い体ではなく、しなやかな筋肉を持つ、紫の銀髪を持つ少年だった。
「!」
「だから!」
少年は、背伸びをするように、体を後屈すると、大きな羽音がして、背中から、大きな翼が現れた。
「肝心な時に代わるんだよな」
紫鳳は、叫んだ。
「すまんな」
瑠璃光は、笑った。
「もう、ここまでにしとけよ!」
「そのつもりだ」
紫鳳の翼が、大きく震えると、絡まった糸は、千々に千切れ飛んだ。そのまま、瑠璃光と入れ替わるかの様に、姿が、交差すると、そのまま、皆の前から、忽然と、姿を消してしまったのだ。
「何と?」
見ていた者達は、あまりの速さに、気をとられていた。聚周は、またしても、瑠璃光に逃げられてしまい唇を噛んだ。
「成徳!」
「なかなか、決着がつきませんな」
成徳は、皮肉を言った。
「何としても、奴を捕まえる。それには、少し、犠牲を払ってもらわないと」
「ほう、それは?」
「新しい漢薬の処方箋と引き換えだ。いつまでも、影役でいたいわけでは、ないだろう」
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