第38話 柳は、風に舞い、花は散る

瑠璃光と風蘭が逢ったのは、そう、何度もあった事ではないが、その時の事を、風蘭は忘れていない。遠くから、瑠璃光が舞をまうのを見た事がある。皇宮で、年に一度、開催された祭りの中で、女装で舞をまう瑠璃光の姿に、見惚れていた。何度も、同じように舞ってみるが、うまくいかない。ある日、人の目から逃れて高台で、舞っている時に、ふわりといい香りが舞い上がった。両手を広げ、高く上げた手を軸に回るとき、ふっと体が軽くなった。頬に長い髪が触れ、それが、誰か気づいた時には、その者は姿を消していた。長い髪から、漂う香りが、そこに居たのは、誰なのかを物語っていた。

「瑠璃香」

残り香が、いつまでも、その高台に残っていた。自分は、いつも、誰かを探していた。瑠璃光と話がしたい。いつの間にか、そう思い、目で追っていた。男装の皇帝として、重臣達の前に立つ時も、瑠璃光の噂を聞くと胸が痛くなった。風蘭を皇帝の座に据え置きたい成徳にとって、瑠璃光は、ますます、邪魔な存在になった。人ではない女子の子。誰もが、噂している冷宮の子。亡くなった先帝の血を弾くのは、瑠璃光だけなのに。遠縁の風蘭を男子として、皇帝の座に治めてしまった。これから先、瑠璃光に近づけてはいけない。成徳は、画策した。瑠璃光が追われてしまうように。星暦寮で、異彩を放つ瑠璃光を追い出すのは、簡単ではなかった。彼らしか持っていない剣を手に入れ、その剣で、星暦寮の主の妻を呼び出し、背後から襲った。そこから先は、聚周も知っての通りだった。だが、思わぬ事が起きていた。星暦寮の主の妻の血を吸い上げた剣は、真紅に染まり、1匹の鳥となり、薫衣の持っていた漢薬典を持ち去ってしまった。感高い鳥の鳴き声が、異変を知らせ、瑠璃光が駆けつけると息絶えた薫衣の姿が、そこにはあった。

「!」

母親の様に慕っていた薫衣の無惨な姿に、瑠璃光は、動揺した。その体を刺し貫いていた剣は、どこにも見当たらず、鮮血に染まった自分の両手だけがあった。

「薫衣様」

瑠璃光が慣れない術を使おうとした時に、聚周が現れた。

「瑠璃光?なんて事を。。」

聚周は、瑠璃光の細い手首を掴んだ。逃げあれない様に。

「違う」

「違うって、これは、状況的に、お前だろう」

「違う!」

薫衣が刺されたらしいと耳にした風蘭が駆けつけると、聚周と瑠璃光の間に、分け入った。

「瑠璃光でない」

「では。。。誰が」

慌てて平伏した聚周は、呟いた。

「違う。。」

瑠璃光は、あの大きな鳥が飛び去った空の方角を見ると、片手で、軽く印を結んだ。

「待て!逃げるな」

聚周が、止めに入り、風蘭は、瑠璃光を庇った。香が宙に舞い、瑠璃光の姿は、どこにも、見えなくなった。

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