第36話 因縁の皇子
兵士の中から、姿を出したのは、忘れもしない成徳だった。
「変わりはない様だな」
成徳は、その小さな体を押し曲げて笑った。
「いつかは、この妖達を退治できるかと思っていたが、長年探していたお主に会えるとは。。」
成徳は、瑠璃光を見ていた視線を移すと、朱殷の上で、はたと止まった。
「おや。。。」
視線は、はたと止まり、瑠璃光そっくりの顔を見比べる。
「はぁ。。なるほど」
成徳は、納得した。薫衣が、殺害された後、追手を差し向けたが、あちこちから、目撃情報はあるものの、一向に尻尾を掴む事はなかった。それは、そのはず、瑠璃光と思い、追手が向かっていたのは、朱雀の龍、朱殷だったのだから、捕まる訳がない。
「文字通り、尻尾を捕まえる事はできない」
朱殷は、自分の長い尻尾を振り返り、ニッと笑った。
「私の剣を利用するのは、辞めてくれないか?」
「残念だが、あの剣がどこにいったかは、誰も知らない。そこにいる瑠璃光という、怪しげな術師もわからんだろう」
「随分な事を言う。難題をいろいろ押し付けてきただろう。星暦寮も、本物の術師はいなくなったと聞いたぞ」
梨王が言う。
「皇帝を立てるには、瑠璃光が邪魔になった。風蘭公女を皇帝として、立てておくには、限界があるからな」
白蓮は、そっと瑠璃光の肩に手を触れた。
「我らの血を引く者を立てる訳には、いかぬだろう」
「へ?」
青嵐は、突拍子もない声を上げた。
「青嵐。黙れ」
紫鳳は、青嵐を制した。
「先帝が、龍神の妃との間に、子を設けたなどと、知れたら、どうなる事か、妖の血が入る事は、前代未聞だ」
成徳は、理路整然と叫んだ。
「今、この場で、滅してやる」
成徳の目には、恐ろしい殺意が、見てとれた。前衛の兵士が、引くと、馬車の中から、覆面をした者が、何人か、降りてきた。
「聚周。。」
瑠璃光の目が細くなった。同じ星暦寮の弟子。寒洞に瑠璃光を閉じ込めた聚周が、馬車から降りてきた。
「おや。。」
聚周は、瑠璃光の声が聞こえたのか、嬉しそうに覆面を外した。
「感動の対面?か」
聚周は、朱殷の顔を気にしつつも、瑠璃光に、迫った。
「お前を捕まえる為なら、誰の元へでも、いく」
「まさか。。お前が、成徳と手を組もうとはな」
「母親代わりだった、薫衣殿の仇と、漢方書が、手に入るなら、誰の味方にでもなる」
聚周の元に、ワラワラと、何人かが、群がっていった。
「いつか、こんな日が来る事を願っていた」
聚周は、この日の為に、精鋭達を集めて来たようだ。瑠璃光に一行と龍神達、皇帝の軍と星暦寮の術者達が、睨み合う形となった。
「どうする?」
紫峰は、瑠璃光に聞いた。
「ここで、本気になる必要があるか?龍神達が、本気になれば、この辺りは荒れる。皺寄せを食うのは、貧しい民達だ。。」
「なら。。。俺達は」
瑠璃光の手が、懐に入るや否や、聚周は、それを待たず、飛びかかろうとした。
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