第35話 薄氷の初恋

瑠璃光とほんの少し、会える時間が、風蘭にとって、午後に雨が降った日の楽しみになっていた。もちろん、幼い頃から男装していた。瑠璃光の前で、悟られる事もなく、過ごす日々が続いていた。が、ある時の事だった。瑠璃光を、遠くから見染めた従姉妹の公主がいた。名を華瑠と言った。

「なんと、素敵な」

その頃は、星暦寮の弟子であった瑠璃光に夢中になった。彼の行き先は、どこにも付き纏い、側から見ても、夢中なのは、明らかだった。誰もが、華瑠は、瑠璃光に嫁ぐと思い込んでいた。星暦寮の師が、皇帝の叔父に呼ばれたときは、誰もが、縁談だと思っていた。初めて、風蘭は、男装を辞めたいと思った。華やかな衣装に身を包んだ、華瑠が疎ましく思え、自分も、飾り立て、瑠璃光に逢おうと思った。爪を染め、髪を結い上げ瑠璃光に逢おうと、雨の降った午後の日に逢いに行った。何時、待っても瑠璃光は、来なかった。成徳が、黙って現れ、髪を結い上げた事を咎めた。禁足を命じ、風蘭は、しばらく閉じ込められた。それから、しばらくだった。星暦寮の主の妻、薫衣が、殺害された事を聞いた。誰も、扱う事のできない朱雀の剣が、薫衣を貫いていたと言う。何人かの目撃者が居り、瑠璃光が、朱雀の剣を操り、言い争いになった薫衣を、殺めたと言う。風蘭は、信じなかった。大勢の者達が、瑠璃光は、犯人ではないと信じていたが、この日を境に、何人かが、皇宮から、姿を消した。星暦寮の何人かが、姿を消し、成徳は、全く、別の部署から人を連れてきた。何事も、なかった様に。風蘭は、また、広くて暗い皇宮に一人ぼっちになった。

「風蘭。。」

一人ぼっちの風蘭に華瑠が会いにきた。政略結婚の為に、草原の王の元に行くと言う。

「瑠璃光が、どうして、いなくなったか、わかる?」

あなたが、注目を浴びさせてしまったから。風蘭は、思った。

「あなたが、いるからよ。だって、彼は、本当の」

華瑠は、言おうとして側に成徳の姿が見えたので、言うのを辞めてしまった。

「彼は。。」

何となく、風蘭は、何を言おうとしたか、感じていた。廃妃の子。本来なら。皇子。

「私達とは、縁のない人」

華瑠は、寂しく笑い皇宮を後にした。あれから、何年だろう。瑠璃光は、どこで、何をしているのだろう。彼を追って、同じ弟子が、姿を消した。あの日、彼に濡れ衣を着せた成徳は、今だに、自分の側におり、自分を縛り付けていた。龍伝河の生贄に選ばれた時も、このまま、籠の鳥となるのなら、河の主に娶られてもいいと思っていた。が、成徳が庇った。自分自身の為に。

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