第30話 河を治める本当の主

河は次第に盛り上がり、幼い子供が、在した状態で、現れた。髪を肩の高さまで、下ろし、瞑想する表情で、盛り上がる水面に座している。

「ひょっとすると、ひょっとするかも」

瑠璃香は、口元を緩めた。

「向こうから、わざわざお出ましか?」

「何か、裏がありそうか?」

紫鳳は、どうする?と、両手を挙げたが、瑠璃光は、首を振った。

「危険な相手では、なさそうだ」

引き続き様子を見る事にした。見ると5〜6歳位の幼い子供が、閉じていた目をゆっくりと開いた。開いた両目は、淡い緑の瞳をしていた。

「梨王!」

太鼓を抱えていた少女は、湧き上がる水面に座した幼い子に声を上げた。

「隠れていないと、だめでしょう」

水面を体が沈み込む事もなく、滑るように歩いてくる。

「少し、気になる波動があって」

河岸に降り立つ。

「炎の波動があって。」

少女は、青嵐の顔を横目で見た。

「人とは、違う。仙師の方かと」

青嵐の小鼻が、少し膨らむ

「仙師だけど」

少女の前に、立ち塞がり、瑠璃光が呆れているのを遠目で見た。

「そんなに、ちびっこいのが、河の主とはね」

梨王と呼ばれた幼い子供は、気分を害したらしく片目を大きく開いた。

「お前が、先ほどの炎を放ったのか?」

「それが、どうした?」

青嵐は、いつもの癖で、小鼻を膨らませた。

「不味い。瑠璃光。挑発している」

遠く木陰から見ていた紫鳳が、目配せした。

「嫌々。。待て、本質がまだ、見えてこない」

紫鳳が、案じたが、結果、案じた通りになった。梨王が、右手を上げると、つられる様に河の表面が、ざわつき白波が立った。白波は、最初、小さな渦を巻き、踊るように、青嵐めがけて、襲いかかった。

「そんな事だと、思った。炎の輪を幾つも、重ね上げ、青嵐は、白波から、身を守った。白波は、炎にさらされると、音を立てて、白い蒸気となっていった。

「止めて!」

踊り子の少女、翠玉が、声を上げたが、力比べは、止まらなかった。

「なるほど」

梨王は、何に納得したのか、手を下ろした。すると、殺気立つ白波は、静かになり、河面は、落ち着いていった。

「本当のようだな」

梨王は、河の表面から、静かに降り立った。立ち上がると、意外と身長があり、見た目より、年齢は上に思えた。

「失礼しました。本物とお見受けした」

梨王は、頭を下げた。

「この所、怪しい者達が多くて。。。約束を破り、自分達の命を守る為、多くの生き物を殺す輩がいてね」

「あぁ。。河の上流か?」

「あまりにも、無差別に、自分以外を簡単に殺してしまう」

「色とりどりに見えた着物は、あなたの仕業か?」

「あれは、妖物」

瑠璃光が、突然、声を上げたので、紫鳳は、面食らった。

「人に憑依する物。」

瑠璃光の顔を見て、梨王は、顔色を変えた。

「あなた様は。。」

「久しぶりだな。」

そう言いながら、瑠璃光は、青龍の剣を差し出した。

「預かっていた剣を返す時がきたようだ」

使う者を守る剣。瑠璃光は、青白く光る剣を、梨王に差し出した。

「青龍の姉弟だな」

優しく2人の顔を見回した。

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