第15話 炎術に、瑠璃光苦戦するのは、紫鳳のせい。
三華の塔には、紗々姫が長年、集めた神器や妖が所狭しとうずたかく、積もっていた。勿論、紗々姫の力だけで、集めた物ばかりではなく、影の協力者が、必ず、そばに居た。それは、玉枝御前だけではあなく、美しき僧正。鶴白だった。品行方正で帝の信頼を一身に集めていたが、そばでは、いつか、帝の権力を奪い取らんと虎視眈々と、狙いをつけていた。寵愛を受ける紗々姫は、権力を手に入れるには、格好の餌食であった。幼いうちから、紗々姫に近づき、少しずつ、心を蝕んでいった。大陸の魔導士が、天の香炉を手に入れ用としている噂を聞き、紗々姫を餌に待ち続けていた。
「おや。。」
気配に気づいた瑠璃香(紫鳳)は、眉を顰めた。
「そちらにいらっしゃるのは?」
扇子で、口元を覆い、首を傾げた。瑠璃香の癖を紫鳳は、真似ていた。
「いえ。。。なにやら、賑やかなので、私も、混ぜていただこうと、現れたしだいで」
鶴白は、うやうやしく頭を下げた。初めてみる瑠璃香の顔に、しばし、見とれた。
「噂は、聞いておりましたが」
美しいと言いそうになって、口をつぐんだ。そんな褒め言葉は、聞き飽きているだろう。色白い顔に、長い黒髪が、美しく、都のどの女性達より、艶やかで輝いていた。鶴白も、美形とは、言われていたが、それは、僧侶としては、という所で、瑠璃香の美しさは、奇しくも、人離れしていた。
「そちらの、香炉なんですが。。」
鶴白が、瑠璃光(紫鳳)の手にある香炉を指していった。
「返していただく訳には行きませんか?」
「これか?」
瑠璃光(紫鳳)は、陽に当てるように、頭の上に翳した。
「まだ、使います」
鶴白は手を差し出したが、瑠璃光(紫鳳)は、後ろ手に隠した。
「どうしても、返してはくれませんか?」
「鶴白!私の物は、こやつの物じゃ」
傍から、紗々姫が飛び出してきた。
「私に、全てくれると言ったのは、嘘か?」
鶴白と瑠璃光(紫鳳)の間に、割り込む。
「これは、私が、持っていくのじゃ!」
叫ばれ、鶴白は、紗々姫の顔を見つめた。
「姫様。あれは、大事な物でございます。姫様が、手に入れたい陽の元の国を」
「いらん」
「へ?」
「いらんと言ったのじゃ。私は、この者について、大陸に行く。この国に未練などない」
鶴白の顔は、ますます青くなった。赤くなったり、青くなったり、必死に何かを思い巡らせているようだった。
「でしたら、姫様。この鶴白に、その香炉を。。」
「ダメじゃ。この者が、欲している。お前には、やらん」
紗々姫に、ピシャリと言われ、鶴白は、ムッとしたようだった。
「そうですか。あちらに行かれると言うのなら、もう、私の主ではないようですね」
「それが、どうしたのじゃ?」
紗々姫と鶴白は、お互いを睨みつけた。
「この鶴白。大陸の魔導士に香炉も、姫様も渡す訳には、行きませぬ。こうなったら、力ずくで、奪い取るまで」
「ほう」
紗々姫は、笑った。バリバリと音を立てて、紗々姫の首筋に鱗が立っていった。
「やばい!紫鳳!」
紫鳳(瑠璃光)は、叫んだ。お互い入れ替わった状態での、術の起動は、不完全だ。鶴白の波動が大きくなっていく。早く、瑠璃光と紫鳳は、元に戻らなくては。紗々姫の鱗が立つのと、同時に、鶴白の手元で、光の輪が光った。それは、燃え盛る炎となり、幾つもの、輪となり飛び散っていった。紗々姫は、変化し、その炎の輪に向かっていく。
「待て!」
瑠璃香(紫鳳)は、片手で、突進する紗々姫を抑えている為、紫鳳(瑠璃香)と入れ替わるチャンスがない。紫鳳(瑠璃光)が、青龍の剣と同時に、瑠璃光(紫鳳)に体当たりしていく。鶴白は、炎の輪を幾つも、放つと同時に、目の前に大きな曼荼羅を繰り出した。
「姫様。これは、どうでしょうね?」
曼荼羅の中から、幾つもの光の束が、飛び出し、紗々姫の体を取り込もうとした。瑠璃光(紫鳳)は、扇子から、光の剣を召喚。束を断ち切ろうとしたが、うまく行かない。
「いまいちだ」
入れ替わったままでは、術は、いまいち。自分の体に戻ってこそ、生える術。香も扱えず、剣のみで戦うが、鶴白の炎術が一枚上手だった。滑るような炎術。皮膚をかすめれば、ジュッと音がして、肉の焼ける匂いが広がる。
「くそ!」
紫鳳(瑠璃光)は、瑠璃光(紫鳳)の至近距離に入った。入れ替わる瞬間だ。
「!!」
察したように、鶴白は、笑った。今まで、紗々姫を狙うように、見せていて、チャンスを窺っていたのだ。射程内に入った時、もう一つの曼荼羅が、黄金色に開いた。
「もう、終わりです」
炎の輪が、重なり曼荼羅が、一瞬、縮んだように見えた。瑠璃光と紫鳳、紗々姫を捕らえ、一瞬のうちに、縮み、弾け飛んだ。光と共に。三華の塔は、横に真っ二つに裂け、天井は、粉々に吹き飛んでいった。残ったのは、炎の壁に、守られた鶴白だけだった。遠く阿と吽も吹き飛ばされ、瑠璃光と紫鳳の姿も、沙耶姫の姿も、何処にもなかった。
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