第4話 空想理論


 宮廷魔術師は震えていた、二体の魔人の前に為す術なく捉えられた。

 戦略級魔術師だ。ありとあらゆる魔術を使う。その殲滅力をかいくぐってラプラスは宮廷魔術師の懐に潜り込み、鳩尾に一撃、意識を刈り取った。

 そこで少女と少年は再会した。


「チェシャ……?」

「アイズ……?」


 そう二人は旧知だった。レールを外れ、此処までたどり着いた。

 そう、未来は良い方向に切り替わった。


「再会を喜んでる暇はなさそうだな。こいつからリユニオンを剥ぎ取る」

「そんな簡単に行くの?」

「レール通りなら、必ず」

「レール?」!

「気にするな」


 怯える宮廷魔術師の頭を掴んで、何やら唱えるラプラスことアイズ。

 魔人に魔術は使えない、そのはずだった。


 ――彼の頭の中は覗いたよ。魔人に魔術は行使できない。例外を除いてね――


 例外、キャットことチェシャは生死を超越した魔人ならざる者だ。魔術の行使も知恵さえあれば。


「チェシャ、今から術式を教える。魔術の行使、任せられるか?」

「展開が早すぎる! けどいいわ! それが私の役割なら!」


 こうして情報交換は行われた。リユニオン起動のトリガーはチェシャに託された。


「人間の本拠地、アメリカ、ロシア、中国、インド、ヨーロッパ、日本。計六発。行けるか?」

「誰に言ってんのよ。万年落第生」

「うぐっ」


 六発分の魔力を精製するチェシャ。それは一つにまとめれば地球を滅ぼすのに匹敵する力だった。


「生きとし生ける者、再会の時来たれり、死して母なる静寂へと相まみえよ。我は天輪を降ろす者。全てを壊し、母と父へと会わせよう。冥府の世界は君達を受け入れる。戦略魔術行使、リユニオン、起動!」


 詠唱が終わる。

 六つの光輪が世界に飛ぶ。

 天にそれを見た人間は絶望した。とうとう司令官は戦略魔術を切ったのだと。

 魔人は歓喜した。この地獄がいよいよ終わるのだと感謝した。


 アルマゲドン。


 世界は終わりを告げる、唐突に。

 世界の主な首都は地図から消え去り――いや地図という概念すら消え去り、世界はリセットされた。

 人類は淘汰され、新人類として魔人が君臨する。

 世界は衰退する歴史を選んだ。

 いつか機能停止する生命種によって支配される地球は廃都ならぬ廃星と呼ぶにふさわしい。

 あっけない結末だ。

 だがこれが魔人の望んだ結末だ。

 世界は終焉、枷を外して、世界から脱却したかった。

 こんな下らない物語。

 人間からしたら茶番でしかない。

 魔人にとってのハッピーエンドはこれだった。

 活動停止を死と定義された魔人は星と共に緩やかに死にたかったのだ。

 宇宙の終わりを眺め、新たな宇宙の誕生を目にするその日まで。

 彼らは夢現を彷徨い続けるだろう。

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魔人戦線 亜未田久志 @abky-6102

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