37話 冬の接線 (4章終)

37話 冬の接線 (4章終)


私は逃げた。何で逃げた?分からない。目からは涙が溢れている。何で泣いている?分からない。一つ分かることは、私は奏斗の方程式に触れることができなかった。恋立方程式は接点を通り越して離れていく。


奏斗は同級生の冬梨と抱き合っていた。奏斗と冬梨の関係式は分からない。頭が混乱していて計算ができない。なぜ?なぜなの?私が悪いのだろうか?待ち合わせに遅れたから?そもそも伝えるのが遅すぎた?


私は急遽会えなくなったことを連絡した。そして気がつくと公園のブランコに座っていた。


(誰か)


私は誰かを求めた。


私の感情を整理整頓してくれる人。


私の想いを知っている人。


この物語を修正してくれる人。


その時、目の前に人が立ち止まった。

私は顔を上げた。


(なぜ⋯)


すらっと伸びる足、寒そうなミニスカート。上半身は厚めのマフラーを巻いて防寒対策バッチリ。


(なんで…)


以前に1度だけ交わった。

その人は私の方程式を乱した。


(なんで…)


そして私も彼女の方程式を乱した。でも想いは真っ直ぐなものだから憎めない。


彼女は私が嫌いだと思う。でも、私の物語を導くために来てくれたのだろう。


彼女はハンカチを私に差し出した。


「ハンカチ、使う?」


「それ、私のハンカチ」


彼女の名前は清水萌衣という。


・・・・・・


私が石森玲であったことを知るのは萌衣しかいない。そして私と奏斗の関係も知っている。


「上手くいくかなぁって奏斗を見守っていたけど、案の定だったね。本当にこの物語を描く作者の心理が気持ち悪いよ」


「冬梨が奏斗に抱きついてた⋯」


「それを見て奏斗に会うのを諦めたっていうわけかぁ」


「⋯うん」


おそらく今日のチャンスをくれたのは萌衣のおかげだろう。チャンスを逃したことを謝らなければならない。


「あのね、奏斗がそんなことで想いがコロコロ変わる人間だと思う?私と付き合っても変わらなかったんだよ?玲は奏斗の何を見てきたの?そんなんでウジウジしてるなら私は本気で奏斗を狙いに行くけどいいの?まったく、玲を応援してるのが馬鹿みたいじゃん」


「私を…応援してくれてるの?」


「面と向かって言いたくは無いけどね。奏斗は玲のことが好きなの。詳しく言えば、石森玲のことが。それなのに奏斗は、あなたが石森玲であることに気付いてない」


私だって奏斗と話したい。奏斗に伝えたい。でも想いはすれ違っていく。奏斗の式に触れることが出来ない。


私はどうすれば想いを伝えられるのだろうか。


「萌衣、お願いがあります」


「うん」


「私にもう一度チャンスをください」


「いいけど、具体的にどうすれば想いが伝えられるの?」


「向日葵公園に誘う」


「向日葵公園?」


「奏斗と初めて出会ったときに一緒に行った公園。そこに奏斗と行けば想いが伝えられる」


私と奏斗が初めて出会った病院の近くにある公園。私はそこで奏斗との再会を願った。そこに行けば、私が石森玲であること、そして想いも伝えられる気がする。


「⋯分かった。もうチャンスは無いからね。ウジウジしてたら本気で私は奏斗を狙いに行く」


萌衣はクセのあるくしゃみを一つして、帰ろうとする。私は最後に萌衣に話しかけた。


「萌衣、ありがとう」


「うん、奏斗に想い伝えられるように頑張ってね」


私は次こそ奏斗に想いを伝える。


必ず恋立方程式の答えを求める。



4章 終わり






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最も簡単な恋立方程式 ましゃき @masakky

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