36話 冬の空
36話 冬の空
玲の少し遅れるという連絡から数十分が経過。二本買ったコンポタも冷たくなっていた。
玲がケーキ屋でバイトをしていることは知っている。クリスマスで忙しかったのだろう。大丈夫。寒さなんて玲に会えたら銀河団の隅に吹っ飛んでいく。冷めたコンポタを1缶開けて飲む。うぅ、不味い。
さらに電車も遅延。ごめんなさいと玲から連絡。無理しないでいいよと返信。スマホをポケットにしまって冬の空を見る。
「あっ、奏斗くん?」
「あ、冬梨(ふゆり)さん」
体育祭の応援合戦ダンスでみんなと2テンポズレていた女子。名前は東金冬梨(とうがねふゆり)。1年生の頃は一緒のクラスで、何かと授業ではお世話になった。
「奏斗くんは誰かと待ち合わせ?」
「うん。少し遅れるらしいけど」
「じゃあ、その人が来るまで少しだけ話できる?」
「うん、いいよ」
2年生になってからは、僕と冬梨の接点はない。冬梨はコミュニケーションが苦手で、一人になることが多かった。
冬梨との昔の想い出を思い出す。
・・・・・・・
『4人班か、奏斗、誰か女子2人入れようぜ』
『おけ。雄大任せた』
『おう!俺に任せろ。俺に誘われた女は断れねぇよ』
約一分後、目の前には今にも泣き出しそうな雄大が居た。
『ごどわ゙ら゙れ゙だぁぁぁ俺のメンタルズタボロだよ、もう学校辞めたい』
『まだ学校入学して1ヶ月だぞ』
僕は人見知りはしないタイプであるが、グループ決めは苦手だった。グループ決めは上手く事が進むことは少ない。人数は4で割り切れるからといって想いは4では割れない。
入学後、親交を深めるために行われる宿泊学習。まだ関係も持たない人と長時間一緒にいることに苦痛を感じるのは皆同じだろう。
1ヶ月でそれとなくグループは構築されていたが、互いに互いがどんな人なのか詳しいことは知らない。僕と雄大は親友同士なのでグループは1秒満たずに出来上がった。
一人の女の子が目に留まる。その人は周囲をキョロキョロしていた。可愛らしい子ではあるが、友人関係を築くのは苦手そうではある。
その人が冬梨という名前だった。
『雄大、あの子誘っていい?』
『冬梨さん?うん、珍しいな、奏斗から誘うなんて』
人から誘われるのは凄く嬉しいことだと思う。僕も小学校時代は友だちが中々出来なくて、雄大から遠足のグループに誘われたことがきっかけで仲良くなった。
冬梨さんから滲み出る警戒オーラ。嫌われていると一瞬思ったけど、誰に対しても警戒心を持つタイプなのだろう。
『冬梨さん』
『…!!な、なに?』
『組む人いなかったら僕たちのグループ入る?』
冬梨さんは首を横に振ろうとしたが、周囲がどんどんグループ作られていくのを見て縦に頷いた。
『いいの?こんな私で』
『うん!入ってくれると僕たちも助かる』
そういう訳で僕は冬梨と関わりを持つようになった。基本的に冬梨が一人の時はペアになっていた。
・・・
場面変わり美術の創作ペア活動。テーマに沿って1m×1mのブロック1㎡の木彫りをするというものだった。僕は冬梨とペアになった。雄大は選択で技術の授業に参加している。
冬梨さんは、さっそく計画していたドラゴンの首を誤ってもぎ取る。頭を何度も下げて謝る。
『なんで奏斗くんはこんな私と関わってくれるの』
『僕とペアになるの嫌だった?』
『ううん、そういうわけじゃないけど。私人見知りだし、足でまといにならないかな』
『それは全然大丈夫だよ、僕も昔は冬空さんみたいに人間関係創るのが苦手だったから気持ちはわかるよ。なんか困っていることがあったらなんでも言っていいよ』
冬梨と作り上げた首無し恐竜は全然かっこよくなかった。でもそれが芸術性を呼び、コンクールに出されることになった。
・・・・・・
そんな冬梨とは、2年生で別々のクラスになった。クラス替え発表の紙の前で冬梨は僕に何かを言おうとしていた。一生懸命に声を振り絞ろうとする冬梨の表情を思い出す。その想いには気が付いていた。でも僕は気付かないふりをした。
「今だから言うんだけど、私、奏斗のこと好きだった」
なんでだろう。人から好きと言って貰えることは気持ちの良いことだと思っていた。でも、なぜ今こんなにも複雑なのだろうか。
「冬梨さん、ごめんなさい。僕には好きな人がいるんだ」
「…そうだよね。分かってた。断られるの分かってたから中々言い出せなかった」
「ごめん」
「ううん、全然大丈夫。最後にお願いがあるんだけど数秒だけ抱きしめて欲しい」
「⋯分かった」
「本当に奏斗くんは優しすぎると思う」
人の想いは無駄にはできない。冬梨さんは純粋な想いで僕を好きになってくれた。萌衣とはまた別の感情だった。
しっかりと冬梨を受け入れて、そして僕から離した。
「ありがとう、奏斗、頑張ってね」
「うん、ありがとう」
冬梨と別れて数分後、スマホに一件の連絡が来る。その一件は玲からの連絡。
結局その日、玲は来なかった。
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