➆終章

 「落ち着けって、美鞠・・・ホント落ち着けって!」

 不意に彼に抱きしめられて、驚いた。

 久しぶりに嗅いだ大好きな杏士のニオイが、あたしの嗅覚を強く刺激する。

 途端あたしは、抵抗する気力を欠いてしまった。

 「結婚しよう、美鞠・・・今すぐ、結婚しよう、俺達」

 数秒間の静寂の後、あたしの耳元で彼がゆっくりとそう囁いた。

 「・・・え?」

 首を斜め上に捻ると。

 2年前の真冬の海で見たのと同じ意地悪な顔が、そこにはあった。

 「だからぁ・・・こんな喧嘩だらけの毎日はもう今日で終わりにしようって、言ってんだよ」

 そう言うと杏士は、腕の力を少し強くした。

 「・・・杏士の、莫迦ばか


 温かい人工の風に、季節にそぐわない赤いチューリップがふわりふわりと揺れるのを横目で確かめてから。

 あたしは、彼の腕の中でゆっくりと瞳を閉じた。


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真冬のチューリップ 山下 巳花 @mikazuki_22

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