⑥最悪の週末

 とうとう、この瞬間ときがきてしまった。

 

 きっとあたしは。

 杏士からこの台詞を聞く日を心のどこかで待っていたんだと、思う。

 杏士のコトは大好きなのに、最近は喧嘩ばかりで憂鬱だった。

 こんな週末、もううんざりだった。

 だけど。

 だけど、あたしから「さよなら」を切り出す勇気はなかった。

 杏士と喧嘩する日々は辛いし哀しいけれど。

 杏士を失うのは、もっと辛いしもっと哀しい。

 そして。

 本格的に杏士に嫌われるのは、もっともっと辛くてもっともっと哀しい・・・。

 浅い内に終わりにできてよかったと、心のどこかで安堵した。


 きっと。

 この「倦怠期」とやらを乗り越えられた二人だけが、「結婚」という切符を手に入れられるのだろう。

 あたし達にはその資格すら、なかった。


 「・・・うん・・・わかった・・・」

 視界がぼやけるのを感じながら、揺れるカーテンのチューリップに視線を置いたまま、あたしは声を絞り出した。

 暫くすると、彼はソファーからゆっくり起き上がり、あたしの目の前に立つと、俯くあたしを不思議そうな顔で覗きこんだ。

 「なんでしょげてんの?」

 頭ひとつ分違う長身の彼にそうされて、心臓がバクバク鳴った。

 けれど、ここで気を許してはいけない。

 「しょ、しょげてなんかないしっ!」

 あたしは、キッと彼を睨みつけた。

 「あはは。変なヤツぅ~」

 杏士は、あたしの頭をポンポンと軽く叩いた。

 「杏士こそ、何!?頭おかしいんじゃないの?」

 気持ちとは裏腹に、あたしはあたしの頭に置かれた杏士の手を払い除けた。

 「だーかーらぁ~もう終わりにしようって言ってんじゃん?」

 彼は、半分笑顔の困り顔をしながらあたしを見ていた。

 困り顔をしたいのは、あたしの方だ。

 何、このシチュエーション。

 マジで意味解かんないんだけど!

 「とにかく、早くココから出てって!荷物は後で送るからっ!」

 「は?」

 「は?・・・じゃなくて!あたしの前から、早く消えて?」

 語尾が少しだけ震えてしまった。

 「おまえ、俺のコト、嫌いなの?」

 「・・・嫌いじゃないから・・・大好きだから早く出てってって言ってんじゃないっ!」

 あたしは、声を荒げてしまった。

 途端、鼓動が激しくうねり出した。

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