➄キムチ鍋
その翌週の土曜日も、彼はやっぱりココにやって来た。
そして、何食わぬ顔をしてテレビを観ながらケータイをいじって寛いでいた。
その様子にイライラしたあたしは、先週の仕返しに彼の苦手なキムチ鍋を堂々と振舞ってやった。
「・・・マジかよ」
杏士はあからさまに頬を歪めた。
「嫌ならコンビニで何か買ってくれば?」
淡々と言ってのけるあたしに、
「つっかかるねぇ」
と、杏士は得意のニヤけ顔であたしを見た。
「いただきます」
あたしは無視して、鍋に手をつける。
「大人気ねぇのっ」
彼はそう言うと、渋々と鍋の中に箸を入れ、白菜を口の中に放り込んだ。
「かっれぇ~~」
「キムチ鍋なんだから辛いでしょ。てか、鍋から直接食べないで」
「ちぇっ・・・はいはい」
杏士はしかめっ面をしながら、小鉢を持ち上げた。
そんな事があったにも関わらず、その日は大きな喧嘩には至らなかった。
いつもだと、その延長線上には大喧嘩が待機していて、部屋の空気を淀ませた。
けれど、その日の彼はとても上機嫌だった。
二人掛けのソファーに上半身を横たえ、膝から下は肘掛けからぶら下げたまま、あたしの知らない軽快な曲を口ずさみながらケータイをいじっていた。
あたしは、夕飯の後片付けでキッチンとリビングとを行ったり来たりしていた。
「なぁ・・・
リビングに戻ってテーブルを拭いていたあたしに、杏士が突然口を開いた。
「何?」
ぶっきらぼうに返すあたしに、彼は続けた。
「もう、今日で終わりにしようぜ」
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