第2話 僕の嘘と君の真実
杉崎先輩のおっぱいを触っているのを、愛しの九雲さんに見られた。
杉崎先輩には鉄拳制裁を食らい、九雲さんからは何も見ていませんよと言わんばかりの無視を食らった。
ついでに僕のあだ名が変態ブラックへと進化した。
神様、僕はこれからどうすればよろしいですか?
ちょっと、駅前にある当たると有名な占い師のところに行って、ぼくの行末を占ってもらおうかな……。
…とりあえず、杉崎先輩に謝りに行こう。
でも、杉崎先輩どのクラスにいるかわからないなぁ。
あ、そういえば朝もらった杉崎先輩の髪の毛ずっと持っていたな。
この髪の毛どうしよう……。
そうだ!
この髪の毛で、下校時間の杉崎先輩の未来を占えば、杉崎先輩の行き先がわかるじゃないかっ!
こういう使い方はストーカーっぽくてなんか嫌だけど、状況が状況なので今回は未来予知を悪用させてもらいますよ。
髪の毛を握る。視界がだんだんと杉崎先輩の未来に染まる。
「……杉崎先輩、なんでカフェの前でじっとしているんだ……?」
カフェの前で5分くらいじっとしながら、ずっと店内を眺めている杉崎先輩の未来の姿が見えた。
★☆★☆★☆★
放課後、杉崎先輩に見つからないようにカフェに先回りする。
すると、杉崎先輩がカフェの前に現れた。
そして、彼女はキョロキョロとあたりを見てから、カフェに近づく。
杉崎先輩はニマニマしながら、店内を見ている。
なんだか、自分のいまのストーカー行為をとりあえず置いておけるくらい、彼女の行動がマジでやばい。
「……杉崎先輩、そんなにカフェに入りたいんですか?」
「にゃっ!? 私は別に怪しいものでは……なんだ変態ブラックか…」
「へ、変態ブラック!?誰からその汚名を聞いたんですか!?」
「君より数百倍かわいい後輩から聞いた」
「うちのクラスの人間ですか?」
「それは秘密です。というより、私は変態ブラック君のことを許していませんので、口をきかないでもらえますか」
「……えっと、本当にごめんなさい」
「私、男の子に触られるのあれがはじめてなんですけど。はじめては好きな人がよかったんですけど」
「……本当にごめんなさい」
「ごめんなさいで済んだら、警察はいらないんだよ!変態ブラック君は警察に捕まって、一生を牢屋で過ごしたいんですか?」
えっ、ぼく終身刑なの!?
初耳なんですけど!?
「どうしたら、許してもらえますか?」
僕がそう言うと、
彼女は、そのセリフを待っていましたよと言わんばかりにニマーっと口角を上げた。
「私はちょうどこのカフェに寄ろうと思っていたのです。ここのココアとクッキーはそれはそれはとても美味しいと有名なのです。でも、私はいまお金がないのです。ここからは言わなくてもわかるよね!変態ブラック君」
「おごれということですね」
「そういうこと、じゃカフェの中に入ろっか!」
杉崎先輩は子供のようにはしゃぎながら、カフェの中に入っていく。
ぼくはため息をこぼしながら、彼女の背中を追うのだった。
カフェの中は落ち着いた感じで、まったりとくつろげる雰囲気を作り出している。
こういうカフェに行ったことがないので、内心とても緊張しているのですよ。
席に座り、向かいには杉崎先輩が座る。
この状況、周りから見ると、デ、デートと勘違いされそうだ。
杉崎先輩は横髪を耳にかけ、もみあげを晒す。そして、メニューを開き、
「何にしようかなぁ〜。高いの飲もうかなぁ。どうしようかなぁ」
「1500円くらいまでに抑えてくれるとありがたいです……」
「あっ、このココアとか美味しそうじゃない?めぐる君どう?」
さすがに店内では変態ブラックとは呼ばれないか……。よかった。よかった。
「どうって言われても、わ、わからないです。杉崎先輩が飲みたいのならなんでもいいですよ」
「うーん、じゃーこのココアにしようかな。あとこのクッキーもたーのも。めぐる君は何頼むの?」
「ぼくはいいです。金銭的に余裕がないので」
「ぶぅーぶぅー、せっかくカフェに来たんだから、何か頼めばいいのにぃー」
「ぼくは水で大丈夫です。」
「じゃー頼んじゃうね。すいませーん、注文いいですかぁー」
彼女が可愛く手を上げながら、店員を呼ぶ。
すると、とんでもない店員さんが来てしまったのですよ。
「えっ、もしかして杉崎先輩と金山くん?」
ぼくたちの机の前で、可愛らしい瞳を大きく開きながらそう驚くのは……。
「九雲さんなんで………」
なんと注文を受けに来た店員さんが、あの伝説の九雲爽香さんだったのだ!
ブラウンのエプロンに熊のブローチがついた、超絶キュートな格好をする九雲さんがここに爆誕したのだ。
ていうか、僕の名前覚えていてくれたんだ、めっちゃ嬉しい。もう死んでも、悔いはないんですよぉ!
「私、ここでアルバイトしてるの。先生には内緒だよ、金山くん」
「も、もちろん、先生には内緒にしておきます」
もし先生にバレたら、最悪の場合退学になってしまうからな。
そんなことになったら、僕本当に死んじゃうよ。
「あっ、思い出した。めぐる君のクラスの女の子だぁ、ん、そういえば、なんで私の名前を知ってるの?」
杉崎先輩が首をかしげる。
「……あ、えっと、風の噂で知ったってやつです」
「そっか、そっか、私は風の噂が流れるほど有名人なんだね。このココアとクッキーをください!以上で」
「かしこまりました、ココアとクッキーですね。……以上でいいですか?」
九雲さんが僕の方を見てくる。
やばい、このままだと愛しき彼女にカフェで水だけしか飲まない貧乏人だと思われてしまう!
背に腹は代えられない。僕の財布よ、空っぽになる準備はいいか!!
「お、オススメってどれですか?」
「オススメはさきほど杉崎先輩が頼まれました、ココアとクッキーです。それにしますか?」
「そ、それでお願いします!」
「かしこまりました。では出来上がるまで、ごゆっくりどうぞ」
しばらく、ココアとクッキーがくるまでボッーと待っていると、
杉崎先輩がニヤニヤと笑いながら、
「めぐる君って、あの子のことが好きなの」
「………べ、べつに好きじゃないですよ。というより、なんでそんなこと……」
「えぇぇ〜だってぇ、めぐる君あの子のことを見る目が完全に恋する高校生の目だったもん。それにすごくキョドってたし」
「そ、そんなキョドっていませんよ。ただ緊張していただけです。はじめてカフェという店で注文をするので。」
「ふぅーん、へぇー、そうなんだぁ。じゃぁ、好きか嫌いかで言ったらどっちなの?」
「……べつになんとも思っていませんよ」
「なぁんだ、そうなのかぁ。せっかくめぐる君の恋路を手伝ってあげようと親切心が湧いていたのになぁ。私の思い違いかぁ」
「そうです。思い違いです」
「ふふふ、めっちゃ顔赤いよめぐる君」
「………」
さっきからフルーツパフェしか頭になさそうなギャルに、主導権を握られているのがとてもしゃくです。
でも、今日はこのギャルに逆らうことができない。
はぁ、なんでおっぱいなんて揉んだのだろうか……。
☆★☆★☆★☆
このあと美味しいココアとクッキーを完食し、財布の中の野口くんたちを犠牲にして、いま僕は杉崎先輩と歩いている。
「ちょっと、あそこの公園寄っていかない?」
杉崎先輩が指をさしたのは、ひと気のない寂れた公園だった。
えっ、なに、もしかして、おっぱいの恨みでぼく殺されちゃう!?
彼女に促されるままに公園に入る。
そして、閑散とした場所にさらに沈黙が訪れる。
ふと、彼女に視線を向けると。
「めぐる君、もう一回占ってくれない?」
と、真剣な眼差しでそう彼女は言った。
「……な、なんで杉崎先輩はそんなに結婚相手を占ってほしいんですか?」
僕が昨日からずっと抱いていた疑問を彼女に、投げかけると。
彼女は少し戸惑う顔をしてから、首を横に振った。
「……それは言えない。でも私は結婚相手を知らなければいけないの」
彼女の言葉は本気の雰囲気をまとっていて、簡単な言葉で返してはいけない気がした。
そして、なによりこんな真剣な相談をされてしまったら……。
僕も真実を伝えないといけないじゃないか……。
「杉崎先輩……じつは僕嘘をついていました」
「えっ、嘘?」
「杉崎先輩の未来の結婚相手は……います。孤独死は嘘です」
「……じゃ、じゃぁ、その結婚相手って誰なの?私が知っている人なの?名前はわかるの?」
「それは言えません」
「な、なんで……?」
「なんで言えないかも言うことができません。すいません、力になれなくて。……本当にごめんなさい。………嘘を未来を伝えるなんて、占い師失格ですよね。……実はこれを機に占い師やめようと思ってるんです……なのですいませんが他の占い師をあたってください」
もともと僕が占い師をはじめたのは、未来予知という能力を試す場として利用するためなんだ。
最初のころはみんなを救ってやろうとか、導いてやろうとか、それなりに大層な意気込みを抱いていた。
でも、そんな意気込みもすぐ折れた。
ぼくの見る未来は、絶対に変えることができない未来。
どんなに足掻いても、結局は訪れてしまう。
そんな残酷な未来を伝える能力。
それがぼくの能力なのだ。
だから、ぼくに未来を聞いたところで、とくに何か変わるわけでもない……。
半端な覚悟ではじめた占い。
やめるなら、ちょうどいい機会だ。
僕は絶対にこの未来を彼女に伝えたくない。
何があっても伝えたくない。
だから……。
「そんなの……そんなの、私が絶対許さないんですけどっ!!」
意志の強い言葉が公園に響く。
「もう一回、占って!はいっ、お願い!」
彼女が、強引に髪の毛をおしつけてくる。
「えっ、えっ………?」
「お金なら払うわ、だから占って!」
彼女の圧に負けて、僕は未来予知をもう一回することになった。
でも、未来は変わることはない。
「同じ未来が見えました。……すいません、やっぱり伝えることはできません」
「じゃぁ、わかった。明日ももう一回占って!」
「な、なんで……?」
「お金なら払うわ。倍の値段を出してもいいよ!」
「………ぼくはできれば占いたくありません」
「そんなの絶対にやだ!私は占ってほしいの!そんなに占いたくなかったら、私。今日胸を揉まれたこと言いふらすから!」
「そ、そんなぁ……」
「私こう見えても顔広いから、すぐに全生徒に広まるよ!そんなの嫌でしょ!嫌だったら占って!」
「………」
「わかった、もし私に協力してくれるなら。さっきのカフェにいたあの子とくっつけるように協力してあげる!どんな手を使ってでも、付き合えるように協力してあげるから!」
悪魔の取引を持ち寄られてるような感覚だ。
協力すれば、ぼくに得があり。
しなければ、ぼくの社会的死が決定する。
「でも、もし占っても、また同じ未来が見えるかもしれない。そうなったら、杉崎先輩にまた言わないかもしれないです」
「それでもいいの!私の気が済むまで占ってほしいの。めぐる君の見たくない未来が変わるまで占ってほしいの!!」
「………」
変わることがない未来。
それはきっと毎日未来予知したところで、都合よく変わるわけはないと思う。
でも、彼女は変わることを信じている。
彼女の求めている未来が真実になるまで、占ってほしいと言っている。
ぼくはその依頼に答えなくてはいけない。
だって、占い師なのだから。
本当は嫌だけど、この依頼は投げては行けない気がする。
僕の残酷な未来予知を打ち破る証明になるかもしれない。
そして、この依頼を最後にしよう。
このめんどくさいお客さんを最後に、僕は未来予知をやめることにする。
「わかりました。明日から杉崎先輩を占うことにします。一日一回。お代はいりません。あと、べつに僕は九雲さんのことなんとも思っていないのでっ!」
「……もう、強がっちゃってぇ。ほんとは好きなくせに……うん、明日からもよろしくね天才占い師めぐる君!」
こうして、僕と杉崎先輩の占い同盟が、このとき、静かな公園で結ばれたのであった。
私たちを占ってっ! 一宮ちゃん! @oppai030939
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