私たちを占ってっ!
一宮ちゃん!
第1話 僕の初恋と君の未来。
ある町の、コーヒーが美味しいと有名のカフェの前。
日曜大工で作った机に適当に百均で買ってきた紫のシートを被せ、これまた適当にどっかで買ってきた水晶を机の真ん中にのせ、簡易占い場の完成。
この前、駅前で同じように占い場を開いて警察に怒られたという思い出を記憶の中に封じ込め、今日も今日とて客を待つ。
この町には、絶対に当たる占い師がいるという噂があるらしいけど、その占い師ってのがぼくことなんだよね。
天才占い師、
実はここだけの話、高校生なんだよね。
占い師のくせにめっちゃ若いんだよね。
と、ぼーっとしていたら今日のお客さんが来ましたよ。
今日のお客さんは、バンダナのようなもので後ろ髪を結った、ギャルだ。
「南陽高校2年の杉崎鈴音です。絶対当たると噂の占い師って君のことだよね? 南陽高校1年、金山恵留くん。ふっふっふぅー」
まったく面識も関わりも縁もゆかりもない先輩が、今日のお客さんだ。
「では、さっそく手相を見せてください」
「えっ、普通のリアクション!?。なんか不敵な笑みを浮かべながら君の前に現れた私になんのリアクションもなく、あくまで普通の営業スタイルを!?占い師の鏡かよっ!」
なんか先輩が勝手に盛り上がっているようだけど、めんどくさいので放っておこう。
杉崎先輩が不服そうに手を前に出してくる。
僕が手相を見ていると、
「ねぇねぇ。こんなに美人な先輩がお客さんとして来たんだから、なんか照れるかキョドるか、のたうち回るかしてよぉ〜」
「生命線が薄いですね。あと知能線も短いですね。」
「この占い師、私の言葉をガン無視しながら、キツめの罵倒を占いでしてきたよ。占いの才能以外にも、ドSの才能もあるのね」
「と、茶番はさておき…」
「えっ、いまの手相占い茶番だったの!?」
「すいません。本当に占いをしてほしいお客さんかどうか見定めていましたので。で、杉崎鈴音さん。あなたは何を占ってほしいのですか?」
僕は手相占いなんてできない。というより、ぼくは本当は占いなんてできないのだ。
なら、お前はペテン師で詐欺師でクズ野郎じゃないか!!とぼくのことを思うかもしれないけど、それも少し違う。
ぼくは真実しか言わない。そのやり方が占いとは少し違うだけで。
杉崎先輩が真剣な顔で、
「ごめんね。私も後輩だからって少しからかっちゃった……」
少し間をおき、
彼女は豊かな胸をさらにふくらませるように、深呼吸をする。
「私の結婚相手を占って」
彼女は真剣な眼差しで言う。
僕は少し驚いた。
こんなフルーツパフェしか頭になさそうなギャルが、自分の結婚相手を気にしているとは。
ふつうの高校2年生だったら、自分の彼氏との相性だとか、来週の期末テストで赤点をとっていませんか?とか目先の出来事しか聞いてこないものだが。
「では、杉崎鈴音さん。髪の毛を一本もらってもいいですか?たぶんはじめての人は理解出来ないかもしれないですが、僕の占いは人の髪の毛を使うことで成立する占いなんです。もし、髪の毛を渡すのが嫌でしたらすいませんが、あなたの力になることは僕はできません」
杉崎先輩はすこし驚いたような顔をしたあと、すぐにためらいなく髪の毛を抜き。
「髪の毛の匂い嗅いだりしないでね。金山恵留くん」
そう、微笑みながら僕に髪の毛を渡した。
「では、見させてもらいます」
僕は髪の毛をギュッと握り、目をつむる。
だんだんと視界は真っ暗闇から、なにか意味のある情景へと変化していく。
そして、見えたのは彼女の未来。
僕は髪の毛を握ることで、その人の未来を見ることができる能力をもっている。
だから、僕がやる占いは占いではなく、未来予知なのだ。
彼女の未来がしっかりとした景色として、脳に流れ込む。
「えっ、これって、え、なんで、えっ………」
「な、何が見えたの?私の結婚相手、そんなにブサイクだった?それとも、そもそも人類じゃないやつ?」
僕は机の上に髪の毛を置き、杉崎さんをまっすぐと見つめる。
「僕が見えたのは………」
「うんうん」
「杉崎さんが孤独死する未来です。」
「あっえっ。もう一回言ってくださいな、私がなんだって?」
「杉崎さんは孤独死します」
「私が孤独死……なんですとぉーーー!!!えっ、なんで、孤独死ってあの孤独死のことぉ?」
「トイレから出たらくも膜下出血で倒れて、誰にも見つけられず、死んでしまう孤独死です」
「そ、そんなに具体的に死因言わなくてもいいじゃん!!私そんな、私に限ってそんな……まさか誰とも結婚してないってことなの、えっえっなんで、私なんか悪いことした?えっ、冗談、なぁんだ冗談かぁ、冗談なら早くそう言ってよぉ。えっ冗談じゃない?冗談じゃないのぉぉぉぉぉぉ。」
一人で会話を成立させだした杉崎さんを、僕は黙って見守る。
ぼくはいま、何か気の利いたことを言えるほど冷静ではないのだ。
「えっと、すいません。お代はいらないので、今日のところは僕帰りますね。さよなら、杉崎さんの未来に幸福が訪れますように、アーメン」
僕が足早にその場を立ち去ろうとすると、
「うぅぅぅ、インチキ占い師金山恵留っ!私の未来が変わるまであなたにはまた占ってもらうから覚悟しなさいっ!学校でずっと付きまとってやるぅ!覚えてろぉぉぉ〜」
杉崎さんがぼくの服の裾を引っ張りながら、吠えると泣きながら走っていってしまった。
その日、天才占い師めぐる君がカフェの前で女の子を泣かせたという噂が街中に広まり、ぼくの地位はどん底に落ちてしまった。
★☆★☆★☆
ぼくには、好きな人がいる。
あの天才占い師めぐる君も、人並みに恋をするのだ。
ぼくの愛しき異性、その人の名前は、
南陽高校の同じ一年、同級生だ。
彼女のことを考えると、世界が華やかになり。
彼女と目が合うと、生きる希望が生まれ。
彼女に話しかけられると、自分を産んでくれたこの母なる大地に感謝してしまうほど、僕は、彼女のことが好きなのだ。
ぼくは今日も愛しのあの子に会うために学校へ行く。
昨日の杉崎鈴音事件を忘れるために、僕はあの子に会いにいく。
あぁ、許されるならあの子の髪の毛をちぎってあの子の運命の相手を未来予知したい。
「あっ、来たわね。インチキ占い師、金山恵留っ!!」
ガラガラと教室のトビラを開けると、僕を迎えてくれたのは、杉崎鈴音事件の当事者だった。
教室がざわつく。
「えっ、杉崎先輩が待ってたのって、あのブラック金山!?」
「あんなブラック金山のこと、なんで杉崎先輩が知っているんだ?」
「ブラック金山なんかがなんでっ!?」
「てか、インチキ占い師とか言ってなかった?」
「もしかして、噂の天才占い師ってブラック金山のことだったの?」
ちなみにクラスのみんなは、僕のことを天才占い師めぐる君だと知らない。
別に隠していたわけではないが、みんなが知らないのは、僕の影が薄かったのが大きな理由だと思う。
あと、ブラック金山というのは僕のあだ名のことで、僕がブラックコーヒーをいつも飲んでいるのを見て、誰かが勝手にそんなあだ名をつけたらしい。実は、あれはブラックコーヒーではなく微糖だということは、内緒だけど。
まぁ、そんなことよりなんで杉崎先輩なこんところにいるんだ?
大方、予想はつくけど。
「はい、私の髪の毛っ!昨日みたいにまた占ってもらうわよ!」
そう言って、彼女はためらいもなく髪の毛をぼくに押し付けてくる。
や、やめてください、杉崎さん!
花の女子高生が自分の髪の毛を男の子に託さないでくださいな。
クラスのみんなが、僕のことを痛い子を見るような目で見てくる。
また教室がざわつく。
「えっ、昨日みたいにって、もしかして女子の髪の毛を占いに使うの!?」
「背筋がゾクゾクしてきたんですけどぉ」
「ブラック金山って変態だったのか!?」
「これからあいつのことを変態ブラックと呼ぶことにしよう。」
「というか、杉崎さんの髪の毛とかレアじゃね?ほしいな」
これが僕の名誉がどん底に落ちる瞬間ですよ。
もう、何も考えられない。
そういえば、今日は愛しの九雲さんが見当たらないなぁ。
あぁ、早く九雲さんに会いたいなぁ。
いやいや、こんな場面九雲さんに見せられるわけないだろ!
どうにか、この状況を良い方向に持っていかなければ。
とりあえず、杉崎先輩を教室の外に追い出さなければ。
「えっと、杉崎先輩ちょっとこっちに……」
杉崎先輩の腕を掴んで、教室を出ようとしたとき、なんかよくわからないけど僕の手は変な方向へと動いた。
そして、その手が掴んだのは、マシュマロのように柔らかいある物体だ。
その物体の名、おっぱい
ガラガラガラ。
「おはよぉ〜。えっ……」
そして、教室の扉が開け放たれ、甘い声が宙を舞う。
その甘い声が僕の耳にたどりつくと同時に、ぼくの何かが音をたてて崩れるのがわかった。
僕が杉崎先輩の胸を揉んでいるのを、九雲さんに見られた……。
これが僕の人生が終了した瞬間である。
このあとは、みんなの想像するとおり。
杉崎先輩に怒りの鉄拳を食らい、クラスのみんなからは変態というレッテルを貼られ、
ぼくは社会的に死んだ。
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