第3話 キチ〇イババア 殲滅編
キンコ~ン!
いつものピンポーンじゃなかった。という事は部屋のドア前ではなくマンション入り口。ウチのマンションは部屋のドア前だと訪問者の画像は出ない。だけど、マンションの入り口がオートロックになっているので、そこでは訪問者の画像か写る。何故か今日はマンションの入り口のピンポンを押していた。
ババアの対応はいつも妻だった。
私が対応すると私の性格上、ババアとトラブルになってしまうと妻は考えていたのだろう。妻なりに、これからの新しい生活を穏やかに過ごす為にと考えていたのだろう。
今、考えても胸が痛む・・・
だから、ババアの話を妻から聞くだけだった私。なのでババアが文句を言っている様子をリアルタイムで見るのは初めてだった。
モニターに写し出されていたババア。キチガイのように髪を振り乱し、何かを叫んでいた。
「学校も近い、仕事場にも近い。ええとこ見つけたな~!言う事ないな~!」
つい数日前まで、夢と希望に満ち溢れていた会話をしていたのがウソのような地獄の日々。
こんなはずじゃなかった・・・
なんで、こんな事に・・・
なんで・・・
インターホンの受話器を握りしめ、泣きながら叫ぶように謝っている妻。
「まぁ、相手おばあちゃんやからな~。少し我慢しとったら収まるんじゃない?」
「ちょっと子供怒り過ぎちゃう?」
俺、何にも知らんかったわ・・・・
ゴメンな・・・こんな思いしてたのか・・・
なのに私は怒り過ぎる妻をたしなめてばかりで・・・・・・・
ダメだ、このままだと、俺たちの方が壊れちまう・・・・・・・・・・・・・・・
「ゴメンな・・・俺、行ってくら・・・・・・」
受話器を握りしめ謝り続けている妻の肩にそっと手を置き私は言った。私は大きな波が打ち寄せる前に潮が引いていくかのように“無”になっていた。
何故かこの時“味噌汁は沸騰させてはいけない”っていうのが頭に浮かんだ。
元来、おちゃらけな私なりに怒りを沸点に持っていかないよう、敢えてふざけた事を考えて調節していたのだろう。無表情でババアのいるマンション入り口に行く為、エレベーターに乗った。
エレベーターの数字がカウントダウンされる。
6・・5・・4・・3・・
プロボクサー時代いつもリングに上がる前、大きく息を吸い込み力強くハッ!っと一気に吐き出す。
それで殺しに来る相手が待つリングに上がる腹が決まる。
あ~俺、リング上がる前こんな顔してんだ・・・
エレベーターのガラスに反射して写った自分の顔。中々の面構えをしている自分を見て、こんな相手だったら嫌だわなと思った。妙に冷静でいる自分が滑稽に思えた。
2・・1・・
リングに上がる前と同じように息を吸い込み、一気に吐き出した。
ハッ!
エレベーターの扉が開く。
リングイン・・・・
1歩・・・2歩・・・3歩・・・大股で歩いていく。
ババアがまだインターホンで何か文句を言っていた。近づく私に気付くババア。
吸えるだけ一杯の空気を肺に取り込む。
「おいっコラーーーーーっ!ええかげんにせーーよっ!お前、何をギャーギャー喚いとんならっっ!!」
巻き舌で今まで溜めに溜めた文句、罵詈雑言エトセトラ。何を言ったか、自分でも覚えていない。おそらくババアが生きてきて、出会った事のない人種だっただろう。
後で妻に聞いたらマンション中に響き渡るくらいの声量だったそうだ。他の住人に聞かれたらどう思われるか・・・そんな余裕なんかなかった。
自分たち家族を守る・・それだけしか考えてなかった。マンションに住めなくなったらなったで、また考えりゃいい。
『人生、こんな甘いもんはない。その気になりゃ何度でもやり直せる』
私が今まで生きてきてたどり着いた持論。
次の日から、ババアの文句はピタリとなくなった。
この件が関係しているのかわからないんだけれど、しばらくしてババアはマンションを引き払い施設に入った。後でババアのフロアに住んでいる住人に話を聞くと、皆、文句を言われて困っていたらしい。
後にも先にも、人生の先輩であるお年寄りにあんなヤカラを言ったのは初めてだった。
“ご近所トラブル”
テレビでしか見た事のなかったものが、自分にも降りかかるなんて夢にも思わなかった。
“毒をもって毒を制す” “狂うが勝ち”
ご近所トラブルを解決するには、腹を決めて相手と対峙する胆力が必要だと思った。
間違っているかもしれないけど、私が感じた「ご近所トラブル」を解決する方法。
これしかないと思った出来事だった。
我が家のご近所トラブル集 絶坊主 @zetubouzu
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