三つ編みの魔法使い

shell

序章 かくして奴は現れた。

茹だるような夏だった。

「魔法を見せてあげる。」

突然現れた少女は古びた水色の自転車に跨りそう言った。

ぬるい風にゆられて少女の肩の上で栗色の三つ編みが跳ねていたのを覚えている。

少女は眩しい陽光を白いセーラー服に煌めかせながらぐんぐんと自転車で坂道をくだってきた。

そして、目の前に広がる青く透き通った海に向かって自転車ごと大きく飛び跳ねると


大きな水音を立ててそのまま落下した。


突然すぎる出来事に呆然としながら揺れる水面を眺めていると、少女は細い手足を懸命にバタつかせて水面を叩いている。どこかで見たような風景だ、なんだったか。と考えると幼き日に見た池に猛突進して溺れた猪の記憶が蘇った。あれにそっくりなのだ。

悠長にそんなことを考えていると少女は水飛沫を上げながら必死の形相で訴えた。

「悠長にっ…見てないでっ…たすけっ…!!」

どうやら溺れているらしいと理解した瞬間、僕は驚いて咄嗟に海に飛び込んだ。


そして、飛び込んでから思い出した。






僕は金槌だ。


こうして、二人仲良くたっぷり海水を味わいながら僕達は近くにいた釣り人に救出された。

これが、奴と僕との出会いだ。

魔女の血を引く、夏の陽光のようにキラキラと笑う少女との出会い。

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三つ編みの魔法使い shell @hosininaritai

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