第2話人生の転機
指輪を手に入れた俺は、繁華街から外れた雑居ビルにやってきた。
《丹藤リサイクルショップ》
目的は品物の鑑定と換金を頼むだめだ。
まるで盗品屋のような薄暗い店内で鑑定をしてもらう。
「……ふむ。間違いなく本物の純金製と宝石の指輪ですね、これは、三枝さん」
鑑定していた黒ずくめのスーツの男は、鑑定ルーペを外し驚いていた。
(――――本物だった!)
その言葉に俺の心臓の鼓動は一気に早くなる。
だが同時に冷静さを取り戻そうとする。何故ならここからが勝負なのだ。
「……三枝さん。この指輪はどこで?」
黒づくめの店主が鋭い視線を向けてくる。まるで死神のような眼光だ。
「どこでもいいだろう?」
だが俺は臆さない。冷静なフリをして、なおかつ強気な態度で言葉を続けていく。
「この店じゃ、そういうのは詮索しないのがウリだろ、丹藤店主?」
《丹藤リサイクルショップ》は名前明るいが、実際には盗品や訳あり品を売買する裏の店。
それを知っている俺は強気な態度を崩さない。
「いいから、いくらで買い取ってくれるんだ、それを?」
「なるほど、たしかにそうだでしたね。コレはかなり質がいいので、普通の店で買い取るなら、200万円でしょう」
――――200万も⁉
「ですから当店では60万円で買い取りさせていただきましょう」
「ふ、ふざけるな⁉ どういうことだ⁉」
まさかの横暴な値下げに俺は思わず詰め寄りそうになる。
いくら出どこが分からないとは、足元を見過ぎなのだ。
「ちなみに低くなった内訳は、この出どこを明かせない指輪を、クリーンにするために100万円以上かかります。後は経費です」
だが天堂店主はあくまでも冷静。低くなってきた理由を説明してくる。
「ふう……そういうことか。それでいいもちろん現金一括で買い取ってくれるんだよな?」
理由を聞いて俺は冷静を取りも出す。ここれ口論しても、後ろに控えているボディガードに消されてしまうのだ。
「ええ、もちろん。それでも、いいんですか? 普通の人は、ここで多少はゴネてきますが?」
俺が簡単に引いたことが想定外だったのだろう。天堂は眉をひそめてくる。
「ああ……往生際も大事だからな。それじゃ、金は貰っていくぞ」
「……はい。ご利用ありがとうございます、三枝さま」
「また来るから……その時はサービスしてくれよな」
「また、ですか? もしかしたら、何か、良い、“お仕事”でも始めたのですか?」
「そんな感じだ。ちょっと命がけ、だがな」
「命がけですか。」
不思議そうな顔をしている天堂を置いて、俺は店を出ていく。
今まで手にしたことがないような現金60万円を握りしめて、軽やかな足で次の場所へ向かうのであった。
◇
現金を手にした俺は、金融業者に返済に回っていく。
「……もう、今月分を返済だと⁉」
「……おい、三枝⁉ どういうことだ、この返済金⁉」
「お前、宝くじにもで当たったのか⁉」
前金で多めに返済してやると、担当者は誰もが驚いていた。
昨日まではギリギリの生活をしてた俺が、いきなり多めに返済をしてきたのだ。
気持ち良い気分で俺は金融機関を後にしていく。
だが俺は慢心はしない。
何故なら次なる準備をする必要があったからだ。
◇
「よし。防具と武器は、こんなもんでいいだろうな?」
残しておいた30万円で俺は買い物をしていた。
内容は崩壊世界で役立つ武器と防具の数々だ。
部屋に持って帰り準備をしていく。
「アイツら化け物の力は強いが、動きはそれほど早くない。防御力よりも機動力と攻撃力を重視だな」
崩壊世界の行動を思い出して、対クリーチャー用の準備をしていく。
前回は着の身着のままの格好で、ファミリーレストランで目を覚ましてしまった。
だから今回は戦闘とサバイバルを想定して、色んな準備をしていたのだ。
「あの時……パジャマや部屋着の奴らもいた。つまり……目を覚ますには法則があるはずだ」
ファミリーレストランでは必死だったが、思い返すと色んな情報が落ちていた。
久しぶりに美味い飯を食って、今の俺は冷静を取り戻していた。
あの時の光景や習性を思い出して、メモに書き起こしていく。
「あと化け物の嗅覚は、そんなに鋭くないはずだ。人間を音と弱い視力で探しているんだろうな?」
放置自動車を隠れて探していた経験で、クリーチャーの習性も少しだけ見えていた。
それを思い出しがながら、クリーチャーの習性もまとめていく。
「あと、持って帰れる品については、もう少し調査をしないとな?」
俺の部屋の感じだと現金や紙類は、放置されて使い物にならないだろう。
前回は指輪以外も鞄やポケットに入れていた。
だが持ち帰ってきたのは何かの制限があるのか? それなら的を絞らないと。
「それなら狙うなら、やはり貴金属か? この街のデパートや貴金属店。あと豪邸の場所も調査しておかないとな」
前回の感じでは繁華街にはクリーチャーがうようよしている。何パターンも想定して現代で調査をする必要があるのだ。
俺は一般人を装いながら、デパートや貴金属店へ調査に向かう。
(今手を出したら犯罪者だが、あの世界では誰も咎めてくる者はいない。つまり、この街の財の全てを俺が手に入れられる可能性があるんだ!)
そう思って歩くだけで笑みがこぼれてしまう。
今はまだ多重債務者な身分だが、崩壊した世界では俺が独占者なのだ。
(一発逆転の大チャンスだ、これが!)
街を歩いているだけは高揚感が溢れ出してくる。
起死回生で一発大逆転のチャンスが俺にまわってきたのだ。
(だが油断はできない。とにかく準備だ。あっちの世界に持っていける準備を。そして、あっちの世界から持ち帰る段取りも)
こうしてあっという間に日は経つ。
そしてカウントダウンの日が、崩壊世界に転移する時やってくる。
◇
「……うっ……ここは? ああ、戻ってこられたのか⁉」
気がつくと俺はまた見知らぬ場所で目を覚ます。
今度は崩壊したコンビニの店内だ。
「うっ……ここは?」
「……なんだ……ここは?」
前回と同じように、他にも転移者がいた。
彼らは何が起きたか理解できず、周りをきょろきょろしている。
「……ん? ここはどこだ?」
「……さっきまで部屋にいたのに、俺は……?」
「……おい、誰かのイタズラなのか⁉」
「廃墟映画のセット?」
誰も理解できず、しだいに騒ぎ始める。
何かのドッキリやタチの悪い悪戯だと思っているのだ。
(この匂いは……戻ってきたのか、俺は!)
だが俺だけは冷静。
死臭を嗅いで脳内麻薬が分泌されていたのだ。
だがここは前回と同じく、この危険なコンビニ廃墟から退去する必要がある。
「……おい、お前たち。ここは映画のセットでも夢の世界でもない現実の世界だ。生き残りたかったら、早く逃げた方がいいぞ」
立ち去る前に集団に声をかけていく。無駄だと思いがこれも人の情なのだろう。
「はぁ、お前、何言っているの?」
「馬鹿じゃねーのか?」
「もしかしたらキミがイタズラの主犯なのか⁉」
やはり誰も信じてくれない。それどころか俺を犯人扱いしてくる。
「ふう……忠告はしたからな。それじゃな」
これ以上の論議は時間の無駄で、俺にも危険が及ぶ。
俺はコンビニ廃墟から駆けて脱出していく。
コンビニから自宅に駆けながら、状況も確認していく。
「武器は? ちっ……やはり無いのか?」
意識を失う前に手に持っていた武器とリュックサックが消えている。
やはり転移で持ってこられる物資には何かの制限と法則があるのだ。
「だが、これも想定内。部屋に戻れば、全部あるはずだ!」
このコンビニからアパートまではそれほど遠くはない。
クリーチャーに見つからないようにすれば、俺は最強装備でスタート出来るのだ。
「装備を手にした後は、財宝を取りに行かないとな!」
家からの貴金属店のルートは既に下見済み。
かなり注意深く移動するために、時間は24時間でも足りない方。一秒でも無駄には出来ないのだ。
「待ってくれよ、愛梨……パパは大金持ちになって、迎えに行くからな!」
こうして崩壊した世界を往来して財宝をゲットする俺のトレジャーな冒険は、本格的に幕を開けるのであった。
◇
◇
だが、この時の俺は知らなかった。
今回の転移者の中に、謎の人物が二名いたことを。
「さっき出ていったのはリュウジ⁉ あの口ぶり、どういうことなんだ⁉」
同級生である現役軍人ハヤトがコンビニにいたことに。
◇
「……なるほど。彼が前回の生き残りの三枝リュウジさんですか。これは期待できそうですね……」
怪しげな転移者が俺をコンビニで観察していたことを。
◇
「この指輪の持ち主の西園寺恵子は、同じ指輪をしていた。つまり三枝リュウジは同じ指輪を換金しにきた、ということ? これは実に面白いですね」
危険な闇商人にも目を付けらていたことを。
崩壊世界の絶対的な攻略法、俺だけが知っている ハーーナ殿下@コミカライズ連載中 @haanadenka
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