第2話新たな人生
新たな決意を決めた俺はさっそく実行に移る。
まずは新しい身体と、この世界についての調査をしていく。
「ふむ、なるほど。ここは《地球》という世界で、俺は《新人ハンター》青木ハルトという名か……」
ポケットに入っていた身分証から、自分の状況を確認。
青木ハルトの記憶も段々と断片的に蘇ってくる。
ここは新人ハンター育成学園で、自分も生徒。
これから授業があるので、情報収集のために参加してみる。
◇
授業は聞かず、教科書をペラペラと読みながら情報を集めていく。
「《ハンター》は……なるほど。魔物を狩る《冒険者》や《傭兵》のようなものか」
魔物が溢れるアールムリアスにも似たような職種があった。魔物から得られる素材や魔石は、魔道具や魔術の媒体で高額取りひきされていた。
だからこの世界でも同じようにハンターという職種があるのだろう。
「なるほど。地球には10年まえに《ゲート》が出現して、モンスターが出現したのか」
教科書には色んな歴史と情報が書かれている。
通常の武器が通じないモンスター。
同時にゲートの出現とともに、魔力を覚醒した人類も出現。
魔物を倒す《ハンター》という新たな職種も、地球で誕生したのだ。
「ふむ。元々、魔物はいない世界。ゲートと魔物も限定的な地域にか出現しない。だからこの《地球》という世界は、随分と変わった文明の進化をしているのか」
地球の歴史でいう中世近世の文明だったアールムリアス。
それに比べて今の地球は、かなり文明度は高い。
建物は高い建築技術で、長方形で縦長に建設され、高価なガラスがふんだんに使われている。
「かなり文明度は高そうだが、これでは城塞としては役に立たんだろうが? それとも市街地には魔物の脅威や戦がないのか?」
教科書によるとモンスターが出現する場所は、ここから離れている。
(なるほど。しばらくは学園で情報を集めてから、本格的に動いていくか
)
青木ハルトとしてあまり目立たないように生きていき、復讐の準備をしていくのが吉だろう。
「それにしても、この身体……青木ハルトの魔力は、どうして、こんなに低いのだ?」
先ほどから魔力を練ってみるが、なかなか上手くいかないのだ。
「もしかしたらハズレだったか、この身体は?」
魔力は生まれつきの素質が大半を占める。魔力が低いものは、いくら努力しても高くならないのだ。
「まぁ、いい。俺さまにはアレがある。時間をかけて高めていくか」
だが世界最高峰の魔道工房師だった自分には、魔力の素質すらも克服する技があった。
魔力ばかりが高くて傲慢連中を、今までも何度も屈させてきた頭脳こそが大事。
だからこそ邪神に最後まで立ち迎えたのは自分が一人だけなのだ。
そんな中、授業が座学の時間は終了。
次は隣のクラスとの合同の実技の時間。
俺はクラスメイトと拾い実技訓練場に移動していく。
「……それでは、自分のハンタースーツを装着して、模擬武器を装備してください!」
教官説明を受けて実技の準備をしていく
地球のハンターは鎧の代わりに《ハンタースーツ》を装着して戦うのだ。
俺も興味本位でハンタースーツを着込んでいく。
「ふむ。なるほど。体内の魔力を消費して、身体能力と防御力を向上させる魔道具のようなものか、これは?」
教科書によると《ハンタースーツ》は《ゲート》出現以降に発明された新技術。
魔力さえあれば女子どもでも超人のような身体能力を発揮。
対モンスター用の画期的な装備だという。
(面白い機械だが、随分と魔力効率が悪すぎるな、これは?)
アールムリアスにはない理論だが、世界最高峰の魔道工房師の俺さまから見たら、《ハンタースーツ》は稚遊にも近い。
たしかに魔力が高い物なら魔物は倒せるだろう。
だが、いくら強化特訓したところで邪神クラスには届かないのだ。
「それでは模擬戦を始めます。名簿順に中央に!」
そんなことを考えている時だった。
教官から次の指示がある。全員がスーツを着たこで、実戦稽古に移行するのだ。
「名簿順。さて、いくか」
記憶によると青木ハルトの名簿はクラスで最初の方。
模擬槍を手にして俺は闘技場の中央に進んでいく。
さて、対戦相手はどんな奴だろう?
「おい、ハルトじゃねぇか⁉」
対戦相手は俺の前に立つ。
体格はハルトよりは大きく、かなり好戦的な態度をとってくる。
(誰だ、コイツは? ん?……記憶が……?)
そう疑問に思うと、頭のなかに記憶が断片的に流れ込んでくる。
これは青木ハルト本人の記憶。
俺が疑問に思ったことで、必要な情報が思い出されてきたのだ。
(ああ……なるほど。そういうことか)
溢れ出した記憶のフラッシュバックで、俺は状況を把握する。
(コイツは青木ハルトをイジメていた連中の一人か。それで青木ハルトは飛び降り自殺をした、という訳か)
記憶はかなり残酷な内容だった。
青木ハルトはこのハンター学園に入学してから1年間。
毎日のように、ある粗暴グループに苛烈なイジメにあっていた。
最初はパシリやカツアゲなどの軽いイジメからスタート。
段々とエスカレートしていき、最近では体罰やテストの不正の擦り付け、までしていた。
純粋な気持ちでハンターを目指していた青木ハルトを、飛び降り自殺まで追い込む卑怯で最悪なイジメのオンパレードだ。
(ふう……イジメか。どこの世界でも同じようなものだな)
アールムリアスの世界にもイジメはあった。
不遇な生まれの俺も、幼い時から色んなイジメを受けていた。
もちろん力をつけていってから、その連中には全て数倍の報復は済ませているがな。
「おい、なにシカトしているんだぁ⁉」
考え事をしている俺に、無視されたと勘違いしたのだろう。
大男は睨みをきかせて凄んでくる。
「ひっ、ひっひ、また泣かせてやるかなら、また、ションベンを漏らすなよ、ハルトくん!」
相手は下品な笑みを浮べている。
俺がビビって震えることを期待しているのだろう。
「ふう……お前こそな」
だが俺は臆することはしない。
軽く流して相手しない。
「――――っ⁉ なんだと、テメェ⁉ 半殺しにしてやるぅ!」
イジメいていた無力が相手が、いきなり反抗的な態度を取ってきた。
大熊アキラは眉間をピクピクさせて激昂する。
そんな中、審判役の教師が合図をしてくる。
「両者、離れろ。構えて!」
仕方がないので距離をとって、模擬剣を構える。
(さて、模擬戦か。だが、この魔力効率が最悪なスーツは、気持ちが悪いな)
最高峰の魔道工房師である俺さまは、何より美しい魔力効率を愛する。
面白いが醜いハンタースーツにムカムカしてきたのだ。
(よし。少しだけ改造するか……)
全身の魔力をハンタースーツに流していく。
効率を悪くている箇所を、削除。
(これを……こうして……こっちは、こうして……)
剣を構えながら、どんどん再構築していく。
(ふむ。これで一割だけの修正だが、多少はマシになっただろう?)
装着したままだと修正にも限度がある。今のところは妥協改造で終わらせておく。
「はじめ!」
そんな時、模擬戦の合図が放たれる。
同時に大熊アキラが動く。
「うりゃぁあああ!」
気合の声と共に、上段から斬撃を振り下ろしてくる。
魔力を乗せたコイツの一撃必殺技なのだろう。
(遅すぎる……な)
だが俺にはスローモーションに見えていた。
光に近い速度の攻撃を放つ邪神に比べたら、あまりにも大熊の攻撃は遅すぎるのだ。
(だが怪しまれるもの面倒だ。一応は反撃するか)
軽く模擬剣で反撃をする。
――――キュイ――――ン!
ハンタースーツが今までと違う駆動音を発する。
俺が魔道工学で魔改造したため、桁違いの魔力効率を発揮したのだ。
「はっ!」
その桁違いが出力を使い、俺は斬撃を繰り出す。狙うは相手のスーツの表面だ。
――――ズッ――――シャーン!
直後、衝撃波が発射。
あまりにも強力な威力に先に衝撃波が放たれてしまったのだ。
――――ズッ、バァ――――ン!
「――――っ⁉ ひっ⁉」
衝撃波を受けて大熊アキラは情けない悲鳴を上げて、吹き飛んでいく。
――――ドッ、シャぁ!
そのまま訓練場の壁に叩きつける。
ハンタースーツは耐久力もあるが、内部にもかなりの衝撃が受けているだろう。
「うぅがぁわわ……」
大熊アキラは泡を口から出して、気絶してしまう。
「「「――――なっ⁉」」」
見ていたクラスは言葉を失っている。
目の前で何が起きたか理解できずにいるのだ。
「い、今の動きは⁉」
唯一、見えていた教官は唖然とした顔で、俺のことを見てくる。
訓練用のハンタースーツが、とんでもない動きをした。
熟練のハンター教官でも信じられないのだろう。
(ふう……やはりちゃんとチューニングしないと魔法効率が悪いな? しかも、もう壊れたのか?)
だが俺は残念気分になっていた。
魔改造で性能は上がったが、俺のハンタースーツはオーバーヒートの煙を上げている。
根本的な伝導率や性能が、俺の魔力に耐え切れないのだ。
(だが予想以上に面白いな、この機械という文明は……)
だが同時にワクワクもしていた。
使ってみたら魔道具にはない作用と駆動があったのだ。
(もしかしたら俺さまの魔道具技術と機械を組み合わせたら……前世を超える力を得ることも可能かもしれないな)
機械には魔道具はない効果と能力もあった。
今の一撃を放っただけで、俺は新たなる可能性に気がついたのだ。
(機械に関してもう少し調べてみる必要があるな。ハンターとしての訓練を含めて、これから忙しくなるな)
こうして地球で唯一の魔道工房師である青木ハルトは、新人ハンターとして新しい挑戦の人生が幕を開けるのであった。
異世界最強の魔道工房師、新人ハンターとして地球に降臨 ハーーナ殿下@コミカライズ連載中 @haanadenka
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