異世界最強の魔道工房師、新人ハンターとして地球に降臨

ハーーナ殿下@コミカライズ連載中

第1話届かなかった前世

 圧倒的な邪魔神が復活して、異世界アールムリアスは滅亡の寸前だった。


 人族や亜人の英雄は全て倒れ、王都や聖都も全滅。


 そんな中で最後の一人となったのは最高位の魔道工房師ダ・ダン。

 だが尊大で偉大な彼も、邪魔神の前に倒れようとしていた。


 ◇


「はっ……《魔工》と名高い俺さまも、いよいよ最期か……」


 四肢を吹き飛ばされ俺は、大地に倒れ込む。

 もう自分は長くはない。

 山のような強大な邪魔神を最後に一瞥する。


『魔道工房師ダ・ダン。キサマはたいした奴だ。この我を最終形態の直前まで追い詰めたのは、今まで滅ぼしてきた数次元の中でも、キサマだけだぞ?』


 邪魔神からは敬意すら感じる。

 数十日に渡る死闘を繰り広げてきた俺に対して、最後に敬意を払っているのだろう。


「はっ! 笑わせるな。いくら健闘しても負けは負けだ。このクソ邪神野郎がよ!」


 だが俺は敬意などクソっくらえ。

 別にこの世界を救うなど自分には関係ない。


『自分の魔道具が全次元で最高である!』


 それを果たせなかったことが、死ぬほど悔しいのだ。


『神の一翼である我を前にして、その尊大な態度。やはり面白い存在だな、魔道工房師ダ・ダン』


「うるせぇ! 早く殺せ」


 負けた相手に褒められても嬉しくはない。むしろ生き恥を晒す前に、早く消えてなくたりたいのだ。


『そうか。それなら消えよ、この世界と共に。魔道工房師ダ・ダンよ』


 ――――ファ――――ン!


 邪魔神の口から漆黒の閃光が放たれる。

 この世界を一撃で滅ぼすほどの熱量だ。


(はっ……いよいよ俺さまも最期か……ん?)


 身体が消失していく時だった。

 ある情報が頭の中に流れ込んでくる。


(――――っ⁉ この理論は⁉)


 流れ込んできたのは新しい魔道工房の理論。

 死を直前にして革新的なアイデアが浮かんでしまったのだ。


(おお⁉ この新理論さえあれば、邪神野郎に一泡吹かせてやれるのに⁉ くそっ!)


 だが時すでに遅し。

 俺の身体は粒子の限界を越えて消滅していく。


(くそっ! 生き返ったら……いや、生まれ変わったら、絶対にこの新理論を昇華して、邪神野郎を……)


 最期に思い浮かんだのは後悔と復讐。リベンジと復活の想い。


 ――――こうして異世界アールムリアスと共に俺も消滅していくのであった。


 ◇


 ◇


 それから長い年月を越えて。


 いや、一瞬のような感じなのか。


 俺は目を覚ます。


(――――っ? なんだ、世界が逆さまに⁉)


 だが何やらおかしい。


 天地が逆になっていた。


(――――これは転落しているのか、俺は⁉)


 俺は10階建てくらいの建物から落下していた。

 あと数メートルで地面が激突してしまう状況なのだ。


「魔力放出をして姿勢制御を! 《放出ブースト》!」


 ――――ブッ、バファ――――!


 咄嗟に全身の魔力を逆噴射。


 ――――ドカ……ゴロゴロ……


 地面に激突寸前で何とかギリギリ間にあう。

 受け身はしたが全身に痛みが走る。


「……いてて……なんだ、この状況は……? ここはどこだ?」


 アールムリアス世界では見たことがない建物ばかりがある。石組みでも木材でもない建造物だ。


「ガラス……か」


 建物に窓ガラスがはめこまれていた。

 アールムリアスは王侯貴族しか使えない高級なガラスが、信じられないほど使われているのだ。


 しかも自分の姿が鏡で映るほど研磨されたガラスだ。


「この顔は……この身体は? そうか転生したのか、俺さまは」


 自分の姿は別人になっていた。

 おそらくは別世界の青年に憑依転生してしまったのだろう。


「アールムリアスは滅亡したから、魂だけが別世界に転生したのか……」


 邪神によって消滅した記憶はある。

 おそらく何かの因果律が狂って、俺は記憶をもったまま別世界の青年に転生したのだろう。


「くっくっくっ……ここがどこか知らないが、待っていろよ、邪神め! 力を取り戻して、必ずお前を倒してやるからな!」


 こうして魔道工房士である俺もリベンジの人生が幕を開けるのであった。



 ◇


 ――――だが、この時の俺は知らなかった。


 ――――転生した世界が邪神のいる次元から一番離れた《地球》という名称なことを。


 ――――この地球には魔道具は存在すらしていない事実を。


 ――――自分が転生した身体は落ちこぼれの青年で、先輩ハンターから壮絶なイジメに合い飛び降り自殺をしていた状況だったことを。



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