第2話新たな人生

 転生してから数日が経つ。


「ふう。ここが《学園》か……」


 俺は無事に目的地ある学園に入学していた。


「換金もできたし、やはり、ここは前世の歴史の中だったんだな」


 この街に住むある人物は、ある物を長年欲していた。

 彼が手に入れるのは、俺が二十代の頃。

 だから俺は先回りして薬草を入手。かなり高額で買い取ってもらえたのだ。


「あれで入学金と当分の生活費は稼げたな」


 前世の十六歳の時は無一文で、日々の食い物にも困っていた。

 だが今世では既に中級市民程度の貯蓄も入手。

 早くも前世よりもリードした生活をしていたのだ。


「16歳で学園に入学できたアドバンテージは、かなり大きいな」


 この世界では十四歳から十八歳までが、魔力を鍛える最適な年齢期。

 だから前世で二十歳を越えてから魔術を習った俺は、かなり大失敗な人生。

 冥王戦ではベストではない状態で挑んでしまったのだ。


「この学園での二年間が、かなり重要だな」


 だが今世では理想の年齢で入学ができた。

 数年後の冥王戦に向けて、これから二年間を、俺は一日も無駄にできないのだ。


「さて、それなら早速、授業とやら受けにいくか」


 学園でのレクチャーは既に受けていた。広大な敷地内を進んでいく。


 そんな時、向こうから三人の集団が向かってくる。

 ネクタイの色は俺と同じの学園服を着た男性。つまり俺と同じ一年生だろう。


 気にしないすれ違おう。


 だが、向こうから俺に立ち塞がる。


「おい、お前、誰だ?」

「転校生じゃねぇか?」


 俺は途中入学の転校生。

 だから見ない顔の同級生に絡んできたのだろう。


 だが今俺は一秒も無駄にできない。無視をして先を進むことにした。


「おい、こいつ、黒マントだぞ?」

「はぁ? 下級平民生徒って、こと?」


 学園には親の身分によってマントの色が4色に分けられる。

 王族と上級貴族は紫色のマント。

 中級以下の貴族と大商人は黄色のマント。

 普通市民は青色マント


 そして俺のような下級市民は黒色マントだ。


(そういえば黒色マントは、いないな?)


 下級市民は普通、学園にはできない。だから珍しいのだろう。


「おいおい、下級市民のくせに、なんで、こんな所にいるんだよ⁉」

「お前のような下級市民がいると、学園の評判が悪くなるんだよ!」


 三人はあからさまに蔑んできた。マントの色をここぞとばかりに見せつけてくる。


(コイツは黄色マント……か)


 つまり中級以下の貴族と大商人の令息なのだろう。身分は高いのだろうが、かなり態度が悪い。


「放っておいてくれ」


 だが俺は気にしない。

 身分のよって差別されたのは前世でも同じ。顔も見たことがないこんな雑魚を、今は相手している暇はないのだ。


「なんだと、てめぇ⁉」

「なにシカトしているんだぁ⁉」


 俺に無視されたと勘違いしたのだろう。

 三人は睨みをきかせて、俺の胸ぐらをつかんでくる。


「どうだ、動けねぇだろう⁉」

「俺たちのような上級階級だと、生まれもった魔力量が違うんだよ⁉」


 相手は体内の魔力で身体能力を強化する、前衛タイプなのだろう。

 魔力で強化した腕力で俺を拘束して、かなり優越感に浸っている。


「ひっ、ひっひ、泣かせてやるかなら、お前」

「おいおい、ションベンを漏らすなよ!」


 三人は下品な笑みを浮べている。

 俺がビビって震えることを期待しているのだろう。


「はぁ……面倒だな」


 だが俺は臆することはしない。

 何故ならこの程度の雑魚は、前世の大人では山のように撃退してきた。


(それにコイツ等の身体能力強化は、どうしてこんなに魔力効率が悪いんだ? ああ、そうか。この時代は《第7世代身体能力》が発見されていないのか)


 魔法理論が一気に進化していくのは、今から数年後になる。

 だから貴族とはいえ遅れた《第5世代身体能力》を使っているのだ。


(ふう面倒だな。解くか)


 胸ぐらを掴んできた手を、右手で逆に握り返す。頭の中で術式を展開し、身体能力を強化していく。


(《第7世代身体能力》……発動)


 前世では最新の術式を発動。

 強化した握力で、相手の右手を握り返す。


 ――――ミシ……ミシ……ミシ……ごきっ!


 あっ、しまった。

 勢い余って相手の手の骨を折ってしまったぞ。


「――――っ⁉ ひっ⁉」


 だが骨を砕かれ、相手は手を放す。

 顔を真っ青にして悲鳴を上げて、その場に尻をついてしまった。


「――――ひっ⁉ た、助けてくれぇ⁉」


 この時代になり高い魔力を受けて、相手は本能的にビビってしまう。情けない声で泣き叫んでいる。


「お、おい、どうした⁉」

「いきなり、どうしたんだ、こんな奴相手に⁉」


 仲間の突然の失態。他の二人は何が起きたか理解できずにいた。


(この程度で怯むとは。つまらないな。放っておくか)


 興覚めしてた俺はため息をついて、その場を立ち去っていく。


「お、おい、待ちやがれ!」

「仲間に、何をしやがったんだ、てめぇ⁉」


 二人も罵声は浴びせてくるが、追いかけてはこない。

 彼らも本能的に危険を感じているのだろう。


 ――――あの下級平民生徒は何かが違う、と。


 だが今後も面倒になりそうな雰囲気だ。


「さて。急いで授業に向かうか……ん?」


 そんな時、野次馬の中から、俺に強い視線を感じる。

 俺のことを不審そうに観察してくる赤い髪の女子生徒だ。


(アイツは……まさか⁉)


 赤髪の女子生徒は見たことがある人物。

 前世では遠目に何回だけ見た人物だ。


(まさか《烈火剣のエルザ》か⁉)


《烈火剣のエルザ》は前世では歴代トップ3の天才剣士と名高い。

 俺も凱旋パレードで遠目に見たことがあるから間違いはない。


(アイツ……この時はまだ生きているのか……)


《烈火剣のエルザ》学園1年生、16歳の時に不幸な事件で急死してしまう。

 前世の冥王戦の前に誰もが口にしていた。


「ああ……あの《烈火剣のエルザ》が生きていたら、もしかしたら勝てたかもしれないのに……」

「剣聖と呼ばれる私ですが、若い時は《烈火剣のエルザ》には一度も勝てませんでしたよ……」


 前世では最強クラスの前衛たちが、最強の才能があった天才剣士と認めた者。それが目の前の《烈火剣のエルザ》なのだ。


 それを思い出して俺が考える。


(あの女を死なないようにして、更に仲間にできたら、冥王戦も勝てるのでは⁉)


 間違いなく生かしておくべきランキング上位だろう。

 今世の俺の目的の一つである『早死にした有能な英傑を一人でも多く助ける』の一人だ。


(これはキツイな……)


 だが俺は孤高を愛する魔導士。積極的に人に話しかけるたことは無い。

 あと特に女は接したこともなく、話すことすら苦手なのだ。


「ねぇ、あんた、転入生? 名前は?」


 ありがたいことに《烈火剣のエルザ》の方から話しかけてくれた。もしかしたらチャンスだろうか。孤高的に返事をして好感度を保とう。


「魔導士シンクだ」


「――――っ⁉ 魔導士⁉ あの尋常じゃない身体能力で⁉ つまり普通じゃないって訳ね? 面白いわ。絶対にアンタは叩きのめしてあげるんだから!」


「……へっ……?」


 だが明らかに相手は敵意をむき出しにしてきた。

 どう考えても今後は友好的に仲間にはできそうにない状況だ。


(素直になって仲間を増やしていて……これは冥王戦よりも難しそうだな……)


 こうして人付き合いが苦手な孤高の魔導士の新たなる人生は、波乱と共に幕を開けるのであった。

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孤高で不遇な魔導士、今度こそ最強の力と仲間を ハーーナ殿下@コミカライズ連載中 @haanadenka

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