孤高で不遇な魔導士、今度こそ最強の力と仲間を

ハーーナ殿下@コミカライズ連載中

第1話後悔だらけの人生

 圧倒的な冥王が復活して、サザンドラ大陸は滅亡の寸前だった。


 人族や亜人の英雄は全て倒れ、王都や聖都も全滅。


 そんな中で最後の一人となったのは孤高の魔導士シンク。

 だが尊大で偉大な彼も、冥王の前に倒れようとしていた。


 ◇


「くそっ……俺も、年貢の納め時か……」


 半身を吹き飛ばされ俺は、大地に倒れ込む。

 もう自分は長くはない。


 山のような強大な冥王を最後に一瞥する。


『魔導士シンク。冥王たる我を、ここまで追い詰めたのは、キサマが初めて。たいした奴だったな』


 俺に止めを刺そうとする冥王は、敬意の言葉を発してきた。

 人類の中で最後まで粘った俺に、最後に敬意を払っているのだろう。


『それに一人で我に立ち向かってきた愚か者の、キサマが最初で最後だったぞ』


「うるせぇ……俺は孤高の魔導士なんだよ……」


 自慢ではないが幼い時から孤高を愛していた。仲間やライバルと呼べる者は、今まで一人もいない。

 だから冥王に対しても一人で立ち向かったのだ。


『そうか。それなら消えよ、この世界と共に。魔導士シンクよ』


 ――――ファ――――ン!


 冥王の手の先から、漆黒の閃光が放たれる。

 この世界を一撃で滅ぼすほどの熱量だ。


(ああ……俺も最期か……)


 身体がだんだんと熱攻撃で消失していく。

 走馬灯のように二十数年間の人生がフラッシュバックしていく。


「くそっ……ちゃんと16歳の時に学園に入学できていたら……」


 孤児だった俺は、適正年齢に魔術の訓練を受けていない。

 独学で魔術を学んできたため、最高レベルまで到達不可能。

 そのため自分の限界に達しないまま冥王に挑み、今はこうして負けてしまったのだ。


「“あの時”もっと素直になって、仲間を見つけていれば……」


 冥王が復活した2年前、多くの英雄が俺に「一緒に組もうぜ、シンク!」と声をかけてきた。


 だが幼い時から孤高を愛し、素直になれなかった俺はソロを選択。

 彼らと一緒になって戦っていたら、冥王戦はもっと優勢に進めていたのだ。


「本当は才能あるアイツらを、あんな事故で失わなければ……」


 才能があった剣士や聖人が若くして亡くなっていたのを見ていた。

 ソロであった俺は指をくわえて見ていることしかできかなった。

 もしも彼らが生き残って成長していたら、冥王戦も勝てる可能性があったはずだ。


「どうして俺は……もっと素直になれなかったんだ……」


 二十数年の色んな後悔が、涙と共に溢れだしてくる。

 今回、冥王に人類が負けたのは、俺が多くの選択肢を間違えたせいなのだ。


「ああ……」


 だが後悔しても、時すでに遅し。

 俺の身体は粒子となり消滅していく。


 ――――こうしてサザンドラ大陸と共に、俺は消滅していくのであった。


 ◇


 ◇


 それから長い年月を越えて。


 いや、一瞬のような感じなのか。


 俺は目を覚ます。


「ここは……死の国か?」


 冥王に破れて死後の世界に来たのだろうか。全身を触り確かめてみる。


「――――っ⁉ いや、感覚がある⁉ どういうことだ⁉」


 魂だけになる死後の世界には、感覚はあるはずはない。

 つまり今の自分は肉体を持っているのだ。


「ん? この汚い小屋は……まさか?」


 目覚めたのは見覚えのある場所。

 自分が十代のころに雨風と防いでいた小屋の中なのだ。


「この小屋も街も冥王に焼かれたはず。どういうことだ? まさか……?」


 確認のために俺は急いで小屋を出ていく。

 大通りの裏路地にある家のガラスに、自分の姿を映してみる。


「この顔と……この身体は……まさか“十代の時の俺”なのか⁉」


 見覚えのある顔と姿に戻っていた。


「まさか逆行転生……タイムリーリープしたのか、俺は⁉」


 逆行転生は禁断に秘術の一つ。

 前世では大陸最高峰の魔導士である俺も使えない技だった。


 だがどうして俺は転生しているのだろう。

 疑問は尽きないが、逆行転生したことは事実。受け入れるしかない。


「はっはっは……若い時に戻ったのか、俺は……」


 ようやく実感して思わず笑い声が出てしまう。

 冥王に殺される寸前に、禁断の術を会得していたのだろう。自分の運命に歯車に笑い声がしか出ない。


「でも、どうして俺は、この年齢に転生を? うっ……頭が……」


 理由を思い返して、急に頭に記憶が溢れだしてくる。


 ――――「くそっ……ちゃんと16歳の時に学園に入学できていたら……」

 ――――「“あの時”もっと素直になって、仲間を見つけていれば……」

 ――――「本当は才能あるアイツらを、あんな事故で失わなければ……」

 ――――「どうして俺は……もっと素直になれなかったんだ……」


「ああ……そうか。この死ぬほど後悔があったから、俺は転生したのか……」


 冥王に消さる寸前に込み上げていた魂の叫び。

 だから十六歳の時に転生してしたのだ。


「だがこの時代の俺は、学園に入学なんて不可能だ……」


 孤児だった俺は裏社会で半グレのような最悪な生活をしていた。

 高額な入学金が必要な《学園》には、どうあがいても持ち合わせていないのだ。


「――――っ⁉ いや、待て⁉ 金ならある! この街にいるアイツから、金なら借りられるぞ⁉」


 前世の記憶で二十代の頃の記憶を思い出す。

 この街に住むある人物は、ある物を長年欲していた。

 かなり高額で買い取ってもらえるのだ。


「ああ……道が見えてきたぞ! 今世では成功する人生プランが!」


 今の俺は誰も知らない十年近い先の未来の記憶と知識を有している。


 ――――これから一気に進化していく最新魔術理論


 ――――今は低価値な品が、これから高額になって取引される先物取引の情報


 情報と知識こそが最重要になる世界で、俺だけが知っているのだ。


「くっくっくっ……待っていろよ、冥王! 最適で最速で成長して、前世を超える最強の魔同志に成長して、必ずお前を倒してやるからな!」


 こうして魔導士である俺もリベンジの人生が幕を開けるのであった。

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