第2話新人ハンター登録

 基礎トレーニングを終えた俺は、繁華街にやってきた。


「ん? こんな店あったか?」


 何となく街の様子が変わっている気がする。知らない店や建物が建っているのだ。


「飲食業は回転が早い、らしいからな」


 だが気にしないでおく。俺がシミレーションマシンに入っていたのは数時間だけのはず。

 まさか数年も経っているはずはないのだ。


「お、第三区ハンターセンター、ここだ」


 目的の建物を発見。民間の企業が設置したハンター用の場所。

 簡単に説明するならハンター版の職業安定所ハローワークだ。


「さて、中に入って、このカードを登録して仕事を探すか」


 シミュレーションを終えた時に、マシンからハンターカードが摘出されていた。

 このカードを提出さえすれば俺が基礎トレーニングを終えた者だと証明できるのだ。


 俺はハンターギルドの中に入っていく。

 建物内はけっこう薄暗が広い。


 ……ざわ……ざわ……ざわ……


 銃火器やスーツで装備したハンターが三十人くらいいた。

 男女は半々くらいで、年齢は十代半ばから40代くらいまで。

 ハンターは魔力の適正さえあれば誰でもなれる職業。

 彼らは目をギラつかせながら、端末で仕事を探している。


「受付は……あそこか」


 そんな活気あるハンターたちの間を通り抜け、俺は受付カウンターに向かう。

 ハンターカードを提出して新人としての登録を依頼する。


「……えーと、鉄山リュウジさんですね。ん? これは随分と古いカードですね? 見たことない柄ですが……あっ、一応は登録もできました。これでOKです」


 俺が持ってきたカードは古い型だったのだろう。受付嬢は首を傾げていたが、無事に機器は反応してくれた。


「えーと、鉄山リュウジさん、今後のハンターの流れを説明します」


 受付嬢はタッチパネルで表示しながら、簡単に説明していく。


 ――――◇――――


 ・ハンターの仕事は《ゲート》から溢れ出るモンスターを駆除すること


 ・モンスターを倒すことで点数が貰えて、ギルドで換金が可能。


 ・特殊や希少なモンスターの素材は高価で買い取りも可能。


 ・仕事をこなしていくと最初はランクFから最高位でランクSまで昇進可能。


 ・ハンター銃は人に発砲してはいけない。重罪として逮捕処罰される


 ――――◇――――


 他にも細かい説明や規約があるが、大まかにはこんなところだ。


「大丈夫ですか?」


「ああ。わかった」


 ハンターの説明はシミレーションマシンの入る前にもレクチャーされていた。少し違う内容もあったが、理解はできる。


「それではこれがギルドから支給されるハンター銃です」


 受付嬢から受け取ったのは短発式のハンドガン。

 単発式で威力が低く、有効射程距離も短い。


「これより強力な銃とハンタースーツ、各種道具、あとは自分の稼ぎで揃えてもらう流れです」


 ハンター協会が手助けしてくれるのは一丁のハンドガンと、50発の弾丸だけ。

 あとは各人がモンスターを倒して換金。更に強力な武器と弾丸をそろえていく必要があるのだ。


「ちなみに鉄山さんは、自前のハンタースーツは?」


「いや、持っていない」


 ハンタースーツは一番安い初心者向けでも一着10万円はする。

 脱サラ者や金持ちは最初から、ハンタースーツを装備している者もいる。

 借金まみれの俺はもちろん所有はしていない。


「そ、そうですか……できれば初心向けでもスーツは必須なんですが……あまり無理をしないでください」


 ハンタースーツは服のように見えるが、魔力を消費して身体能力と防御力を強化可能。

 危険なハンターには銃以上に必死なのだ。


「ああ。理解した。最初はあまり無理をしないで、スーツ代を貯める」


 ハンターは一攫千金を狙えるが、装備に投資する必要もある。

 裸一貫の俺はまずは手ごろなモンスター狩り。10万円を貯めてスーツを購入するのが最適解だろう。


「あと、魔力値の測定も無料でできますが、やってください」


 魔力値も測定器もモンスター技術革命の一つ。

 水晶玉のような機器に手を振れるだけで、潜在的な魔力の量を測れるのだ。


「ああ。わかった」


 水晶に手を置き、体内の魔力を高めていく。


 ――――しゅわ――――ン♪


 水晶が光りだし、パネルに数値が表示される。


「ええと……《魔力量:E》で《魔力放出:D》ですね、鉄山さんは」


「ああ。そうだな」


 これはシミレーションマシンに入る前に測定した数値と同じ。

 残念ながら俺はどちらの適性も低い方なのだ。


 ――――そんな時、店内で笑い声を上げる者がいた。


「おいおい、聞いたか⁉ 《魔力量:E》で《魔力放出:D》だってよ⁉」

「ああ、そんな低い才能ない奴、久しぶりに聞いたぜ⁉」

「しかも自前のスーツも無し、らしいぞ⁉」

「おいおい、自殺行為だろ、ソイツは⁉」

「がっはっは……だな!」


 彼らは店内にいた3人のハンターたち。暇な彼らは俺のカウンターのやり取りを聞いていたのだろう。

 才能がない俺のことを蔑んできた。


 だが俺は気にせず店内を後にする。

 何故なら急いで金を稼ぐ必要があるからだ。


「おい、兄ちゃん! 無視はよくないぜ!」

「ハンターは上下関係も大事なんだぜ⁉」


 だが俺が無視したと勘違いしたのだろう。

 俺に無視されたと勘違いしたのだろう。

 三人は睨みをきかせて立ち塞がってくる。

 しかも俺の胸ぐらをつかんでくる。


「どうだ、動けねぇだろうが⁉」

「これが100万の高級ハンタースーツのパワーなんだぞ⁉」


 相手は自分の力を誇示したい性格なのだろう。

 高価なスーツで強化した腕力で、俺を拘束。かなり優越感に浸っている。


「ひっ、ひっひ、泣かせてやるかなら、お前」

「おいおい、ションベンを漏らすなよ!」


 三人は下品な笑みを浮べている。

 俺がビビって震えることを期待しているのだろう。


(はぁ……面倒だな)


 だが俺は臆することはしない。

 何故なら新人イジメがあることは、レクチャーで聞いていたからだ。


(それにコイツのスーツの身体能力強化は、どうしてこんなに魔力効率が悪いんだ?)


 胸ぐらを掴まれて、ふと疑問に思う。

 相手はイキっている割には、それほど脅威に感じないのだ。


(もしかして手加減しているのか? 新人に対するパフォーマンスなのだろう)


 レクチャーによると先輩ハンター、新人に洗礼を浴びせてくる者がいるらしい。

 だからコイツも手加減をして、俺の胸ぐらを掴んできたのだろう。


(だが面倒だな。そろそろ解くか)


 今は時間が押しい。

 胸ぐらを掴んできた手を、右手で逆に握り返す。

 体内の魔力を集中して、自分の身体能力を強化していく。


(魔力に身体強化か……基礎トレーニングで何万回しかた覚えてないな)


 シミレーションマシンの中で身体能力強化の項目もあった。

 魔力が少ない俺は徹定期的に《魔力効率》を特訓。

 今では得意な技の一つだ。


 ――――ファン


 身体能力が最適な効率で発動される。

 強化した握力で、相手の右手を握り返す。


 ――――ミシ……ミシ……ミシ……ごきっ!


 ん?

 まるで相手の手の骨が折れたような音と感触がした。


「――――っ⁉ ひっ⁉」


 まるで骨を砕かれてかのように、相手は手を放す。

 顔を真っ青にして悲鳴を上げて、その場に尻をついてしまった。


(まさか俺ごときの魔力で手は折れないはず。演技か……)


 きっと新人に花を持たせるために、痛がって演技をしているのだろう。

 見事なものだ。


「――――ひっ⁉ た、助けてくれぇ⁉」


 先輩ハンターの演技は本格的。

 本当に恐怖で怯えるように、情けない声で泣き叫んでいる。


「お、おい、どうした⁉」

「いきなり、どうしたんだ、こんな奴相手に⁉」


 仲間の突然の失態。他の二人は何が起きたか理解できずにいた。


「お、おい、待ちやがれ!」

「仲間に、何をしやがったんだ、てめぇ⁉」


 二人も罵声は浴びせてくるが詰め寄ってはこない。

 まるで本能的に危険を感じているようだ。


 ……ざわ……ざわ……ざわ……


 ギルド内はざわついている。他のハンターたちも何事かと見てきたのだ。


(雰囲気的に立ち去った方が吉だな)


 新人ハンターとこれ以上の騒ぎはまずい。

 あと何より俺は時間が惜しい。泣き叫ぶ先輩ハンターを置いて、その場を立ち去っていくのであった。


 ◇


 ――――だがこの時の俺は知らなかった。


 店内にいた一人の少女が鋭い視線を送ってきたことを。


「今の人は……もしかしてリュウジさん⁉ でも、そんな馬鹿な……あの人は5年前から行方不明になっていたはずなのに⁉ 調べてみないと」


 彼女は国内にも数人しかいないSランクハンターで、《大一世代ファーストズ》の英雄の一人なことを。


 ◇


「おい、牛田の奴が、ギルドで新人に舐められたらしいぞ?」


「うちのクランに立てつく奴は許す訳にはいかん。どこの誰だか調べて、落とし前をつけさせろ」


「「「へい!」」」


 凶暴なハンタークランに目を付けられてしまったことを。


 ◇


 だが彼らも知らなかった。


 自分たちが手を出そうとしている男が、地獄の999年間のトレーニングを顔色一つ変えずに乗り越えた怪物なことを!


 ◇


「さて、まずは、初心者向けの『ゴブリン狩り』でコツコツと稼ぐか」


 こうして規格外の新人ハンターのリュウジの激動の物語は幕を開けるのであった。

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トレーニング歴999年の新人ハンター、モンスターあふれる現世で駆逐していく ハーーナ殿下@コミカライズ連載中 @haanadenka

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