第1話目覚め

 202X年のクリスマス。

 世界中に《ゲート》と呼ばれる異世界への異次元ルートが出現する。


 世紀の発見に調査した科学者たちは歓喜したが、次の瞬間悲鳴に変わる。


『『『ガラァアア!』』』


 モンスターと呼ばれる異世界の魔物が、《ゲート》から溢れ出すようになったのだ。

 ゴブリンやオーク、翼竜ワイバーンなどモンスターはどれも人を喰らう残忍が生き物ばかりだった。


「う、撃てぇ!」

「ば、馬鹿な⁉ 銃が通じないだと⁉」

「戦車砲も効かない、だと⁉」


 別次元のモンスターは通常の銃火器や爆弾は効果が皆無だった。

 次元が違うためにこちらからの攻撃が無効化されてしまうのだ。

 理論的にはミサイルや核ミサイルですらダメージを与えられないのだ。


「こ、これは⁉」

「これは世界のエネルギー理論が一変するぞ⁉」


 そんな中、科学者たちは発見する。

《ゲート》出現と同時に、地球の人間には《魔力》と呼ばれる力を持っていたことを。

 そしてトレーニングを積めば《魔力》は物質に付与可能なことを。


「――――っ⁉ や、やったぞ⁉」

「銃弾が通じたぞ⁉」


 魔力は人間が手に持つ程度の物体に付与可能。

 そのため銃弾に魔力を込めると、異次元のモンスターに有効打が検証されたのだ。


「よし、この理論と魔力測定器を、今すぐ世界中に発信しろ!」

「魔力値とコントロールが高い者を今すぐ集めろ!」


 世界各国で魔力の才能が高い者が集められていく。

 目的は我が物で跋扈しているモンスターに駆除するためだ。


「ハンター候補者求む。年収は2千万以上確約!」

「魔力値B以上。魔力コントロール値B以上の人の年収は5千万!」


 また軍需企業や警備会社も莫大な利益を狙い、この魔力産業に参戦していく。


「ん? この素材⁉ 地球にない元素だぞ⁉」

「この魔物の核は……これはとんでもない大発見だぞ⁉」


 モンスターの素材は地球に第四次産業革命をもたらす。ゲートが現れてから特殊な文明が一気に発展していったのだ。


「身体能力はこのスーツでカバー可能!」


 特に進化したのはモンスターを狩るハンターの装備。

 ハンタースーツと呼ばれる特殊な服は、魔力で身体能力と防御力を強化。

 人外であるモンスターとの戦闘に欠かせない技術となっていた。


「戦闘経験の有無もシミレーションマシンで代用可能だ!」


 そしてもう一つ画期的な発明はシミレーションマシン。

 ベッド型の機器でイメージトレーニングするだけで、数年分の戦闘訓練と同等になる。


 これによって魔力値は高いが戦闘の市民が、たった数ヶ月で新人ハンターになることが可能になったのだ。


「うっ……頭が割れそうだ……」

「おい、シミレーションマシンは連続で2時間までなんだぞ⁉」


 シミレーションマシン中は食事や排泄も不要。

 そんな夢のシミレーションマシンにも大きな欠点があった。


 体感時間が早すぎるために、2時間ごとに休憩が必要なのだ。


「このシミレーションマシンの試作機は危なすぎるな」

「ああ。研究所の倉庫に廃棄だな」


 特に初期の試作機は一気に長期間のトレーニングは可能だが、人体に悪影響を及ぼすことは発覚。

 研究者と開発者は、初期ロットを封印してしまう。


「おい、この機器はなんだ⁉」

「知るか⁉ それよりも新型の方に集中しろ!」


 シミレーションマシン開発の黎明期はまさに混沌としていた。

 そのため研究所の倉庫は稼働したままの機器などが、無造作に置かれていく。



 ――――ウィ……ン


 だから誰も気がつかなかった。


 シミレーションマシン試作の一台が倉庫内で何年も稼働していたことを。


 中には第一世代のテスト青年が入ったままのことを。


 ◇


 ◇


 ――――《ゲート》とモンスターが出現してから5年が経つ。


 俺こと鉄山リュウジはシミレーションマシンから目を覚ます。


「ふう。ようやく基礎トレーニング終了か」


 ベッドから起き上がり全身の全身のほぐれを整えていく。


「最初の説明よりも、けっこう長かったな、これ」


 シミレーションマシンの中で俺はひたすら基礎トレーニングを繰り返していた。

 射撃と魔力のコントロール。スーツを使った体術や移動など。


 マシンが再現したモンスターと、ひたすら戦闘とトレーニングをしてきたのだ。


「かなりワンパターンだったけど、最後の方は、なかなか手応えもあったかな?」


 技術者の説明によると、現実世界で解析されたモンスターは、すぐにアップデートでシミレーションマシンに登場。

 もちろん上位モンスターと戦うには、低いランクのモンスターを倒す必要があった。

 だが長時間のトレーニングをしていた俺は、最新で高ランクのモンスターも楽々倒せるようになっていた。


「それに縛りプレイもしていたからな」


 なかなかシミュレーションがクリアできないので、俺は縛りプレイにも挑戦していた。

 片目をつぶりプレイ始まり、片手プレイ、片足プレイ。ハンドガン縛りプレイ。


 最終的には『視覚封印&片手片足封印&最弱ハンドガン縛り』プレイで、最強モンスターも討伐していた。


「まぁ、実戦で役立つことはないけどな」


 シミレーションマシンはあくまでもゲームみたいなもの。時間さえかけたら誰でもクリア可能なのだ。

 だから俺も慢心せずに新人ハンターとして頑張る必要があるのだ。


「さて、たしかシミレーションマシンのチュートリアルが終わったら、新人ハンターの登録に行くんだよな。ん?」


 周りを見て気がつく。最初にマシンに入った時は、こんな光景はなかった。

 自分以外にも先行テスト体験者が5人いたはず。

 だがシミレーションマシンは俺が入っていた一台だけ。

 というか、研究所みたいだった場所が、ガラク倉庫みたいな光景に様変わりした。


「もしか俺が一番遅くなったから、片付けられたのかな? まぁ、いいか。さっさと新人ハンターの登録をして、生活費を稼がないとな」


 俺がシミレーションマシン初期型の被験者になったのは金のため。

 亡くなった親の借金の返済をするために、ハンターとして一攫千金を夢見ていたのだ。


「新人ハンターか。いくら稼げるんだろうな。でも、やるしかないな」


 こうして俺は廃棄された倉庫を後にして、街のハンター登録所へと向かうのであった。


 ◇


 ――――だがこの時の俺は知らなかった。研究所のメインタワーが混乱していたことに。


「ん? 所長……この表示、何ですか? 急にオープンになったんですが?」


「――――っ⁉ なっ、それは倉庫に廃棄してある初期型の⁉ どういうことだ⁉」


「あっ。中のデータが見られました。どうやらトレーニングを終えた被験者が目を覚ましたようです」


「ば、馬鹿な⁉ あの初期型の中に人がいただと⁉ そんな馬鹿な⁉」


「どうして、そこまで?」


「新人のキミは知らんと思うが、初期型は現存のマシンとは時間差が別格なのだ!」


「えっ……このデータだと、約五年間、被験者はシミュレーションの中にいた、ということですが……」


「それなら体感で999年間も、ずっと基礎シミュレーションをしていたことになるぞ⁉ あ、あんな地獄のようなトレーニングを999年も……どういう鋼の精神状態な者なんだ⁉」


「どうしますか、所長?」


「さ、探せ! こんな不祥事が政府にバレたら、この研究所も終わりだ! そいつを探して連れもどせ!」


「はい……あっ、でも、被験者の名前や写真のデータがないです? どうしますか?」


「な、なとか、して探せ!」


「あっ、はい。善処します」


「くっ……これはマズイぞ……あの地獄のシミュレーションを999年間も耐えられてクリアした怪物を野に放り出すなんて……」

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