転生魔王は世界を変革する
かりーむ
第1話:勇者は魔王の息子に生まれ変わる
少年は言った。
「ルイス・クロリア。将来魔王になる男だよ。どうぞ宜しく」
「………そのぅ、確認なんですけど、ルイスくんはヒューマンですよね?」
それを聞いたある者は困惑した。
ある者は侮蔑したし、ある者はあきれ果てた。
ただ一人、金色の少女が唇に弧を描くだけだった。
◆
ユーリがある絵本を開くと、1ページ目にはこうあった。
―――むかしむかし、ヒューマンとまぞくはひどいあらそいをしていました。
『むかしむかし』、と枕詞がつくことから分かるように、今は違う。人と魔族が、総力を挙げての戦いに明け暮れていた時代なんて遥か昔。何百年も前のことだ。
人と魔が覇を競った『人魔大戦』は、最早人の『記憶』ではなくなり、今や教科書に載っているような『歴史』の一コマとなってしまった。
――――しかし、今年で9歳になるユーリ・ハイデガルドにとっては、話が違う。
彼には前世の記憶があった。かつての『人魔大戦』で活躍した勇者としての記憶が。
ヒューマンの希望と業を背負って、勇者は魔族に挑み、その果てに死んだ。そして、次の生が始まったのだ。自身が死した数百年後の世界にて。
そんなユーリは目下、重大な問題に直面している。
血筋、というか親についての問題である。
ユーリの今世における父の名はガイアス・ハイデガルド。周囲の部下からは魔王ガイアスだとか単に魔王と呼ばれている。
そう。
何の因果か、勇者はかつて自身を殺した男の息子として産まれてしまったのだ。
◆
赤い絨毯が引かれた玉座の間。その最奥の玉座に魔王は腰かけていた。魔王は、立派な髭を蓄えた老人だった。
背丈は目算で2ミドルと少し。人族と比べて背こそ高いが、別に目が三つあるとか腕が10本ある異形ではない。意外かもしれないが、魔王はヒューマンと殆ど変わらない外見をしている。
しかし、その眼は血のように赤く、牛のような一対の角がこめかみから生えている。その2点こそ、彼が魔族であるという事の証だった。
ユーリは眼光鋭く魔王を睨んだ。
「覚悟しろ魔王! 勇者である俺があなたを倒してやる!」
対する魔王は無言だった。無言だが、眉を八の字にして困ったような顔をしていた。
「魔王! 覚悟! 【
魔法式が輝き、その後に放たれるは光の矢。それは光速に迫る勢いで、魔王の眉間へと真っすぐに跳んでいき――――。
「【
魔王に傷一つつけるすら、叶わなかった。
魔王は半透明の魔力の防壁で息子の魔法を難なく防ぐと、次なる魔法を発動させる。
「【
「うわっ!地面が!?」
ユーリの足元の地面が真っ黒にぐずぐずに溶け、沼のように変化する。それに足元をとられ彼は無様にも転がった。
「くっ! 動けないっ!?」
必死にもがいて沼から抜け出そうとする。が、黒色の沼はユーリの膝上まで飲み込んでいる、容易には抜け出せない。沼には粘着性もあるようだ。もがけばもがくほど身動きがとりづらくなっていく。
「――――何度も言うがのう」
魔王は玉座から立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。ユーリの頬に汗が流れた。唇を噛みしめながら、魔王を見上げる。恐ろしい予感に、背筋が震える。
「光属性の魔法はお主の身体に合ってないぞい。合わない魔法を使ったところで、その威力もたかが知れておる。ユーリに一番適性のある属性は闇じゃ。―――――
予感は当たった。魔王は身の毛もよだつセリフを吐いてきた。
「誰がパパだ! 俺はあなたを父親だと認めた覚えはない!」
その言葉で魔王の歩みがピタリと止まった。
「え、パパちょっとショック……。いや、かなりショックじゃ……」
魔王は今にも泣きそうな顔になる。項垂れている間に、ユーリは何とか沼から抜け出すことに成功した。
言うまでもなく敵前逃亡は勇者の恥であり、極刑ものだ。相手が怨敵である魔王ならば言わずもがな。
しかし、時には戦略的撤退も必要なのだ!これは勇気ある撤退である!
そう、自身に言い聞かせながら、魔王の間の出口に向かってユーリは駆けだした。
「ふはははは! 今日はここまでししてやる! だけど、覚えておけよ魔王! あなたは必ずこの勇者が倒して見せる!」
「あ、待つのじゃ。息子よ。【宵闇の沼】っと」
「ぐぎゃ!」
再度俺の足元に黒色の沼が現れ、ユーリは盛大にこけた。
「何をする! 魔王!」
「あ、すまん、すまん! 怪我はないか!?」
「謝るな! この程度平気だ!」
「おお、良かった……。でも、これから昼ご飯なのじゃ……。料理人が折角作ってくれた料理じゃ……。食べずに出かけるのは、申し訳ないじゃろ?」
一瞬思案する。
「っ! 良いだろう! 確かに、人が折角作ってくれた料理を食べず、期待を裏切るとあっては勇者の名折れ!」
俺の言葉に魔王は、本当に困った様に苦笑いする。
「いや、お主は勇者じゃなくて次代の魔王なんじゃけど……」
「誰が魔王なんかになるか! 俺は勇者だ!」
この5時間後、魔王ガイアスは殺害され、更に14時間後、その息子ユーリは処刑されることになる。
転生魔王は世界を変革する かりーむ @kariumu08
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。転生魔王は世界を変革するの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます