転生魔王は世界を変革する

かりーむ

第1話:勇者は魔王の息子に生まれ変わる

 

 少年は言った。

「ルイス・クロリア。将来魔王になる男だよ。どうぞ宜しく」

「………そのぅ、確認なんですけど、ルイスくんはヒューマンですよね?」

 それを聞いたある者は困惑した。

 ある者は侮蔑したし、ある者はあきれ果てた。


 ただ一人、金色の少女が唇に弧を描くだけだった。


 ユーリがある絵本を開くと、1ページ目にはこうあった。


 ―――むかしむかし、ヒューマンとまぞくはひどいあらそいをしていました。


 『むかしむかし』、と枕詞がつくことから分かるように、今は違う。人と魔族が、総力を挙げての戦いに明け暮れていた時代なんて遥か昔。何百年も前のことだ。


 人と魔が覇を競った『人魔大戦』は、最早人の『記憶』ではなくなり、今や教科書に載っているような『歴史』の一コマとなってしまった。


 ――――しかし、今年で9歳になるユーリ・ハイデガルドにとっては、話が違う。


 彼には前世の記憶があった。かつての『人魔大戦』で活躍した勇者としての記憶が。

 ヒューマンの希望と業を背負って、勇者は魔族に挑み、その果てに死んだ。そして、次の生が始まったのだ。自身が死した数百年後の世界にて。

 

 そんなユーリは目下、重大な問題に直面している。


 血筋、というか親についての問題である。


 ユーリの今世における父の名はガイアス・ハイデガルド。周囲の部下からは魔王ガイアスだとか単に魔王と呼ばれている。


 そう。

 何の因果か、勇者はかつて自身を殺した男の息子として産まれてしまったのだ。



 赤い絨毯が引かれた玉座の間。その最奥の玉座に魔王は腰かけていた。魔王は、立派な髭を蓄えた老人だった。


 背丈は目算で2ミドルと少し。人族と比べて背こそ高いが、別に目が三つあるとか腕が10本ある異形ではない。意外かもしれないが、魔王はヒューマンと殆ど変わらない外見をしている。


 しかし、その眼は血のように赤く、牛のような一対の角がこめかみから生えている。その2点こそ、彼が魔族であるという事の証だった。


 ユーリは眼光鋭く魔王を睨んだ。

「覚悟しろ魔王! 勇者である俺があなたを倒してやる!」

 対する魔王は無言だった。無言だが、眉を八の字にして困ったような顔をしていた。

「魔王! 覚悟! 【光輝の矢ライトニング・アロー】!」


 魔法式が輝き、その後に放たれるは光の矢。それは光速に迫る勢いで、魔王の眉間へと真っすぐに跳んでいき――――。


「【魔力障壁マナ・バリアー】」

 魔王に傷一つつけるすら、叶わなかった。

 魔王は半透明の魔力の防壁で息子の魔法を難なく防ぐと、次なる魔法を発動させる。

「【宵闇の沼よいやみのぬま】」

「うわっ!地面が!?」


 ユーリの足元の地面が真っ黒にぐずぐずに溶け、沼のように変化する。それに足元をとられ彼は無様にも転がった。

 

「くっ! 動けないっ!?」

 必死にもがいて沼から抜け出そうとする。が、黒色の沼はユーリの膝上まで飲み込んでいる、容易には抜け出せない。沼には粘着性もあるようだ。もがけばもがくほど身動きがとりづらくなっていく。


「――――何度も言うがのう」

 魔王は玉座から立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。ユーリの頬に汗が流れた。唇を噛みしめながら、魔王を見上げる。恐ろしい予感に、背筋が震える。


「光属性の魔法はお主の身体に合ってないぞい。合わない魔法を使ったところで、その威力もたかが知れておる。ユーリに一番適性のある属性は闇じゃ。―――――パパ、、と同じくな」


 予感は当たった。魔王は身の毛もよだつセリフを吐いてきた。

「誰がパパだ! 俺はあなたを父親だと認めた覚えはない!」


 その言葉で魔王の歩みがピタリと止まった。


「え、パパちょっとショック……。いや、かなりショックじゃ……」


 魔王は今にも泣きそうな顔になる。項垂れている間に、ユーリは何とか沼から抜け出すことに成功した。

 言うまでもなく敵前逃亡は勇者の恥であり、極刑ものだ。相手が怨敵である魔王ならば言わずもがな。

 しかし、時には戦略的撤退も必要なのだ!これは勇気ある撤退である!


 そう、自身に言い聞かせながら、魔王の間の出口に向かってユーリは駆けだした。

「ふはははは! 今日はここまでししてやる! だけど、覚えておけよ魔王! あなたは必ずこの勇者が倒して見せる!」

「あ、待つのじゃ。息子よ。【宵闇の沼】っと」

「ぐぎゃ!」

 再度俺の足元に黒色の沼が現れ、ユーリは盛大にこけた。

「何をする! 魔王!」

「あ、すまん、すまん! 怪我はないか!?」

「謝るな! この程度平気だ!」

「おお、良かった……。でも、これから昼ご飯なのじゃ……。料理人が折角作ってくれた料理じゃ……。食べずに出かけるのは、申し訳ないじゃろ?」


 一瞬思案する。

 

「っ! 良いだろう! 確かに、人が折角作ってくれた料理を食べず、期待を裏切るとあっては勇者の名折れ!」

 俺の言葉に魔王は、本当に困った様に苦笑いする。

「いや、お主は勇者じゃなくて次代の魔王なんじゃけど……」

「誰が魔王なんかになるか! 俺は勇者だ!」


 この5時間後、魔王ガイアスは殺害され、更に14時間後、その息子ユーリは処刑されることになる。




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転生魔王は世界を変革する かりーむ @kariumu08

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