エピローグ
地底世界から生還して、三ヶ月が過ぎた。
神矢たちが8月の夏休みに地底世界へと校舎ごと落とされて、地上に戻ってきた時には、翌年の4月になっていて、今は7月に入っていた。
地底ではおよそ半年程だと感じていたが、どうやら時間の経過が地上とは少し違っていたらしい。
神矢たちは、通っていた高校の姉妹校へと振り分けられ、そこで再度高校生活を送ることになった。
授業の遅れに関しては、まったく問題なかった。神矢をはじめ、地底世界から生還した生徒たちは、周囲が驚く程知識を吸収して、すぐに周りに追いつき、追い越していった。前の高校は、問題児が多く偏差値も低かったが、全員が見事にうって変わって優秀な成績を叩き出した。
生徒たちを一年留年させるべきと教育機関の意見もあったが、神矢たちは三ヶ月遅れて進級するという異例の事態を引き起こし、矢吹や林たち三年生も、無事三ヶ月遅れての卒業式だ。
それが今日だった。
矢吹、林、宮木、友坂、櫛谷、山田、他数名の三年生が、体育館で卒業式を行い、そして、そこに神矢たち二年と一年の地底生還組も出席していた。
教師たちの中には鮎川の姿、来賓には、九条と、育児休暇中で赤子を抱いた早瀬の姿もあった。娘の恵子は泣くことなく、腕の中で眠っていた。
それぞれが名前を呼ばれ、修了証書を受け取っていき、無事に矢吹たちの卒業式は終了した。
拍手で終えて、神矢たちは校門のところで矢吹たちに近づいた。
「矢吹さん、宮木さん、林さん、卒業おめでとうございます」
「おう神矢。ありがとよ」
「サンキュー、神矢」
「お前におめでとうって言われると、なんか照れくさいな」
林が照れていると、その頭をパシッと友坂が叩いた。
「林、ちょっとアンタ泣きそうになってんじゃないの?」
「あ、アホ言え! おれがこんな卒業式程度で泣きそうになるわけないだろうが!」
林と友坂のやりとりにみんなが笑う。
「みなさんは、この先の進路はどうされるんですか?」
尋ねたのは雪野だった。実は、先ほどからずっと神矢の隣にいる。上原と宍戸は、少しだけ離れていた。
矢吹たちの話を聞くと、宮木と友坂は調理学校へ、矢吹と林はバイクの工場で働く予定らしい。櫛谷、山田は大学に進むようだった。
宮木と櫛谷の仲は相変わらず仲が良いようで、この先同棲したいと言っていた。
山田と矢吹も現在付き合っている。
友坂と林は……林が言い寄っていたらしいが、結局はフラれて、すでに友坂は別の男性と付き合っているそうだ。
九条と鮎河は、同棲しているそうだ。結婚を視野に入れていると言っていた。
早瀬はシングルマザーとなっていた。半年以上生死不明だったため、男の方は諦めて次の相手をみつけていたという。それを聞いて、雪野たちは憤慨していたが、早瀬は意に介していなかった。
「神矢は結局、雪野と付き合うことにしたんだな」
矢吹の言葉に、雪野が照れ笑いを浮かべて神矢を見た。
神矢も彼女を見て頷いた。
「あーあ、神矢が遥を選ぶとはねぇ。まあ、薄々こうなるだろうなーって思っていたけどさ」
後ろから上原が言って、その隣りで宍戸が頷いた。
「そうねぇ。わたしもワンチャンあるかなって思って参戦したけど、やっぱりこうなったかって感じよね」
妙に納得顔の二人。そして、上原が神矢を見て言う。
「神矢、あんたはたらしなんだから、遥を泣かせたりしたら許さないから」
「綾ちゃんのいうとおりね。他の女に優しくするのは禁止。わかった?」
宍戸がめちゃくちゃなことを言う。
神矢は納得いかなかった。何故、たらしの称号をつけられているのだろう。何とか言ってもらおうと、神矢は矢吹と九条に視線を送ったが、二人は首を横に振った。
「……神矢、残念だが二人の言う通りだ」
「ゴメン神矢くん。反論できない」
神矢が憮然としていると、雪野が助け舟に入った。
「ちょっと、わたしの彼氏を悪く言わないでくれます。神矢くんのこの優しさにわたしは惚れたんだから」
ハッキリと言った彼女に、みんなが口笛を吹いて、そして笑った。
地球には未だ未知の部分がある。世界は不思議で溢れている。現代科学では解明できないものもある。
この世界は、ミステリーであり、オカルトであり、そしてファンタジーでもあると、神矢は地底世界を経験して思うようになった。
ある意味ファンタジーのような地底世界で、西と北の部族たちは、今後どんな文化を築き上げていくのだろうか。また会える日は来るのだろうか。
「神矢くん、何考えてんの?」
雪野が神矢の顔を見て尋ねた。
ここで地底世界の話をするわけにもいかない。一部、記憶が違う者もいるからだ。
だが、残してきた者、旅した者の記憶はみんなにもある。
「……いや、桑田先生どうしてるかなって。あと、どうでもいいんだけど、黒河も」
神矢の言葉に、みんな顔を見合わせた。
「……桑田センセーは、不思議生物だらけの世界で狂喜乱舞してんじゃね?」と矢吹。
「奇声あげている姿が想像できるわね」と鮎河。それに苦笑いする九条。
「でもギンちゃんには嫌がられていたよね」と、上原。
「ある意味、人類の恥かも」と容赦ない宍戸。
桑田が酷いことを言われたが、その矛先を変えたのは、宮木だった。
「それよりも、やっぱ気になるのは黒河だろ」
「あー、アイツは絶対、あの世界を満喫しているな。刺激大好き人間だからな」と林の言葉に、みんなが頷いた。
「……ま、アイツのことだから今もきっと、危険なことして楽しんでいるんだろうな」
神矢もそう思った。
神矢にちょっかいかけるヤツがいなくなったのは良いが、いま思えば、無理矢理にでも連れて帰った方が、地底世界のためだったかもしれない。
……まあ、大丈夫だろう。と、神矢は思うことにした。
地底には、ギンとその仲間もいるし、ダイア、ナックルたちもいる。地底の部族たちもいる。そうそう、悪いことができるとは思えない。
「アイツは好きであの世界に残ったんだ。気にしないでおこうぜ」
林が言って、「それもそうだな」と全員が頷いた。
終
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おまけ
地底世界で常識が通じないことは何度もあった。
ここでは、さまざまな変化に対応しなければならない。
森林の中で、黒川はその4歳程の女児と出会っていた。彼女は威嚇するように牙を剥き出しにして、黒川を睨みつけている。
メガネザルのような大きな目玉。岩肌のような、硬そうな灰色の肌。鮫のようなギザギザの不揃いの牙。
間違いない。東の部族だった。
東の部族に女はいないとされていた。産まれてくるのは男だけだと聞かされていた。
「さーて、どうするかなー」
黒川は悩んだ。この娘を生かしておけば、この先どんなことになるかは、想像に難くない。
だが、女が産まれてこないはずの東の部族に、女が産まれたという変化は、この地底の何かしらの意思のようにも感じる。
「ま、なるようになるかー。面白そうだし、育ててみよう。いや、ホントこっちに残って良かった。まだまだ楽しめそうだ」
黒川は心底たのしげに、笑みを浮かべた。
────────────
『ディープグラウンド〜地底サバイバル学園〜』を最後まで読んでかださった方、応援してくださった方、本当にありがとうございました。
これにて、完結とさせていただきます。
初の長編小説で、どうにか書き切ることができてホッとしています。
あ、ちなみに黒川の話は続きませんのであしからず。
本当に、ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
巧 裕
ディープグラウンド〜地底学園サバイバル〜 巧 裕 @urutramikeinu
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