終章2
「……ああ、素敵ですわ! これずっと読みたかったの! ほんとうにこの本、お借りしていいの?」
「もちろん、どうぞ」
放課後。いつも部室には、水に張り付いたアメンボのように村崎野原がいる。立ち振る舞いは同級生より上品だったが、その表情はほんの少女のようだ。
長年ひとりでミステリ小説を読み続けてきた彼女(祖父は数年前に他界したそうだ)、こうして高校のミステリ研で仲間と同じ趣味について語らい、情報を交換し、愉しそうに日々すごしている。
そんな村崎、佐藤、鈴木を遠目に見ながらぼんやりと平見が缶コーヒーを飲んでいると、隣を通りかかった吉田がぽつりと言った。
「平見、高校卒業した後も延々とつきまとわれたらどうするの?」
「え、それはないでしょ、さすがに……ない……よね?」
人と関わることで、社会になじみ、ミス・テリアスの奇妙な犯人願望も自然と薄れていくに違いない。そんな希望的な観測をしている。ただ、彼女がホンマモンのマジモンのやばいヤツだったら、その限りではない――。
「どうしよう。やっばい。本格的にやばい。念のため、はやくこのしょうもない事件体質の呪いから脱却したほうがいいな」
「どうやって?」
「知らん」
名探偵コナンの事件体質を治す場合だったら、連載が終われば事件は起こらなくなるだろうと平見は考えた。
「吉田、わかったぜ。つまりここでこの物語が終わればいいんだ」
「この物語ってなに?」
「さあね……」
平見少年は苦笑いした。
というわけで、ここでこの物語は終わる。
ミス・テリアスの華麗な事件 らいらtea @raira_t
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