終章1

 翌年の風薫る五月――

 転入生を紹介します。

担任の言葉に促され、制服を身にまとったミス・テリアスは一年生の教室に入ってきた。自己紹介をするために、黒板に名前を書いていく。

 小さい字で書いた漢字四文字を、彼女は力強いチョークで消し線をぐちゃぐちゃと入れてしまった。

「――みなさん。わたしのことはミス・テリアスと呼んでちょうだい」

「え、なんで……?」

「い・い・か・ら!」

 問答無用でクラスメイトからの疑問をねじ伏せて、彼女は微笑んだ。


 こうして。

 ミス・テリアスこと村崎野原(むらさきのばら)は、十九歳になってから高校に転入した。彼女が学校からドロップアウトしたのは小学二年生の頃。いま、まさに十年以上ぶりの学校生活を謳歌している。

 常時、平見ムサジを観察するためには同じ学校に通うのが手っ取り早い。本当は同じクラスに入る目論見でいたが、転入のための試験勉強をしなければならず、平見たちの一学年下の生徒となった。

 とはいえ村崎はすぐに平見のいるミステリ研に入部したので、今のところそれほど支障はない。平見のクラスで、ちょっとしたしょうもない事件が起これば、すぐに直行できる距離にいる。

 部外者が学校に侵入するわけにもいかないので、関係者になれたのは幸いであった。

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