第75話 おさしみリベンジと協力者

 イリスさんとの対談を終えて、俺とコンは車に乗り込み、一度実家に戻る事にした。


 本当はこの後、樹も交えて門倉と半グレ集団のアジトに乗り込む算段を立てるつもりだったのだが、門倉さんはその前にやることがあるとのことで、集合は翌日のお昼頃となった。


 門倉さんには事務所の住所と俺の連絡先と、俺が調べて分かった事をあらかじめ伝えてあるので迷わなければ合流できるはずだ。


 現在時刻は十九時前。


 辺りはまだ顔を出している夕日に照らされて明るく、通行人も夕飯の買い物に出る主婦や、部活帰りの学生等が目立っていた。


 館からの帰り際にもう一度コンに辺りの気配を探って貰ったが、結局淀みの気配は感じられず、現状危険はないとのことでほっと一安心ではあるが、直接的に脅迫状を貰った身としては、嵐の前の静けさの様でなんだか逆に不気味な感じだった。


 そんな事を考えていたせいか、不安の色が顔に浮かんでしまっていた様で、樹が心配そうに声をかけてくる。


「あら、四季ちゃんどうしたの?そんなに難しい顔して?カナブンでも噛み潰したのかしら?」


 樹は俺の心境を知ってか知らずが、黙々と箸を動かしていた俺にそう問いかける。


 というか、カナブンって何だカナブンって…。


「そうっすよ、そんなに怖い顔してちゃ、コンちゃんが悲しむっすよ!あ、コンちゃんお醤油取って欲しいっす!」


「ん?これでよいか?」


「コンちゃんサンキューっす!」


 と、樹の問いかけに便乗しつつ、コンから醤油の小瓶を受け取る花奈。


「四季…?その…おさしみ…美味しくなかったか?」


 と、俺の顔を覗き込み、眉を八の字に垂れ下げて不安げに問いかけてくるコン。


 先程からちらちらとこちらの様子を伺うように顔を覗き込んでいたのには気付いていたが、俺はそんなに怖い顔をしていただろうか?


 樹に言われるまで全く気付かづに過ごしていたせいで、俺はコンに気を遣わせてしまった事を反省しつつ、頭を振り雑念を払って言う。


 というか、ナチュラルに夕飯に混じっているが、この二人も仕事終わりにこちらに集合してくれたのである。


「あ、いやそういう訳じゃなくて…料理は美味いよ?」

 

 と、俺が否定すると、コンはほっとしたのかすっと胸をなでおろす。


 先程までは不安げに歪んでいた表情も、肩を撫で下ろし息を吐いた事で、幾らか和らいでいて、尻尾や耳も心なしか元気を取り戻したのか、ピンと張りが出ている様な気がする。


「ふふん、初めてにしては良く出来たと、とーこが言っておったのじゃ!ふふ、もっと褒めても良いのじゃぞ?」


 と、ぺたんこの胸を張り、八重歯を覗かせて得意げな顔をしてのけ反り気味の体制になるが、視線は何故か俺の顔に向けられたままだった。


「………じーっ!」


「ん?どした?」


 俺が問いかけると、コンはプイっとそっぽを向き、視線を反らす。


「な、何でもないっ!」


「…?」


 と、俺がまた食事を再開しようと箸を動かし、皿に盛られた刺身を一切れ口に運ぶと視線を感じた。


「……じーっ!」


 コンは自分の食べる手を止めて、またこちらをじっと凝視している。


 唇を尖らせ、両手を胸の前できっちりと揃えてぐっと握り、尻尾ををゆらゆらと揺らし、こちらの一挙一動を見逃さないぞと言わんばかりに、ジーっと俺の顔を眺めている。


 視線に耐えかねて俺は、食べる手を止めて、コンの方を向いて言う。


「あのー?コンさん?そんなに見られてると食べづらいのだが…?」


「…っ!」


 と、俺が声をかけるとまた視線を反らし、そっぽを向いては箒で地面を履くみたいに、地面に尻尾を擦り付ける様にぷらぷらと揺らすだけだった。


「なあ…これはどうしたらいいんだ?」


 と、箸を置いて右隣に座っている樹に助け船を求めると、樹と花奈は深いため息を吐いて、肩を竦めて「やれやれ…」と、言わんばかりに首を振る。


「どうしろってんだよ…全く…」


 俺が本当に困っていると、母さんが見かねて口を開く。


「ふふ、コンちゃんはね、きっと四季にもっと褒めて欲しかったのよ。ね、コンちゃん?」


「……っ!!」


 と、調理中だった母さんが一度調理を中断して、キッチンの方から顔を出してそう言うと、コンは頬を赤く染めて、心なしかさっきよりも尻尾の動きが激しくなり、耳をピクピクと小刻みに揺らしていた。


 ちなみに今作っているのは、お醤油と砂糖で甘く煮つけられた鯛の煮つけの様だ。


 先程から鍋がコトコトと音を立てて、お砂糖と醤油の甘くて香ばしい香りがリビングの方まで漂ってきていた。


「そうなのか?」


 と、俺が問いかけるとコンは相変わらず顔をこちらに向けようとはしないが、横目でちらちらとこちらの様子を伺っている。


「まいったな、こりゃ…あーその…なんだ、初めてにしては確かに上手だ。美味しいぞコン。よくやったな…?その、これでいいか?」


 と、俺がそう言ってコンの頭を撫でてやると、コンは顔を「にへらぁ~」と、緩ませたかと思えば、ぐりぐりと自分からおでこを俺の手に押し付けてくる。


 可愛いやつめ。


 しばらく俺に撫でられていると、コンは満足したのか漸く頭をずらしてこちらの顔を覗き込み、満面の笑みを浮かべて席を立つと、台所に立って調理をしていた母さんの所へ駆けて行き、小声で報告している様だったが、近くなので丸聞こえだった。


「へへっ、やったぞとーこ!四季が美味しいって言ってくれたのじゃ!」


「コンちゃん頑張ったもの、そりゃ美味しいわよ。四季に褒めて貰えてよかったわね~?」


「うむっ!」


 と、報告するコンの姿に樹と花奈の二人も顔をほころばせ「あらあら…」と、苦笑していた。


 とまあ、そんなことがあったのだが一通り夕飯も食べた後、樹たちに今日の事を話したのだった。


 ちなみに煮つけもそうだが、カルパッチョやホイル焼きなんかも出てきて、とにかく今日の夕食も豪華だったし、美味しかったのは言うまでもない。


 イリスさんからお土産に貰ったお菓子も食後のデザートとして皆で食べたが、やはりこちらも絶品だったのと、母さんが目を光らせて「研究のし甲斐があるわぁ!」と、一番喜んでいたのだった。


 というか、コンが来てからというものの、夕食が豪華なのは良い事だな。


「ということで、門倉さんが仲間になりました」


 俺は食べ終えた食器をシンクに運ぶと、蛇口から水を出して皿を漬け置いて、カウンターキッチンの向こう側…リビングでコンと戯れている樹と花奈にそう告げた。


 夕食を食べながら、今日と今後の流れについては話していたのだが、二人の反応はさもありなん、と言った様子だった。


「特殊部隊って…何も喧嘩しに行くわけじゃないんだから…素直に返してってお願いすればいい話でしょう?まあ、相手が相手だから荒事になる可能性は否定できないし、そもそも盗んでおいて素直に返すとは思えないから、結局荒っぽくなるかもしれないけどね?まあ、どちらにせよ結局のところ、取り返すことになったら乗り込むしかないからこうなるのは仕方ないわね」


 樹は手にしたコップを傾け、麦茶を飲み干すとテーブルに置き頷く。


 特殊部隊とは言っても門倉さんは何の特殊部隊に居たかまでは教えてくれなかった。


 まあそこはおいおい教えてくれる時が来るか、もしくは言えないかのどっちかだろうが、門倉さんの体つきからして、そこらの喧嘩自慢の不良程度に後れを取ることは無いだろう。


 俺達にとっては貴重な戦力だ。


「で、いつ乗り込むのよ?」


 と、樹が腕を組みそう尋ねる。


「まあ、門倉さんの予定が終わり次第乗り込もうとは思うよ。一応門倉さんにはそう伝えてあるし、多分その為の準備をしてくれているんだと思う」


「ま、手際の良いこと!」


「まあ、執事なんてやってるし…いかにも仕事のできる人って感じの素敵なおじさんだったぞ?」


「あらやだ、年上もありかもしれないわね…?ぽっ!」


「ぽっ!じゃねえよ!…ったく、一応明日は荒事にならないとは限らないんだから、準備はしっかりとしておかないとな?」


「ま、そうね…精々怪我しない様に頑張るわ!」


 と、樹は荒事上等とでも言うかのように、腕まくりをして、肩を回しているのだが、そんな様子を真似てコンも何故か腕まくりをしてくるくると細い腕を回していた。


「ん?これはその…何をしておるのじゃ?」


「ふふ、何でもないわ。ただの腕の体操よ」


「おお、なんだか身体が熱くなってきたぞ!」


「ほほほ、でもやり過ぎると痛くなるから程々にね?」


「あーい…なのじゃ!」


 と、コンは右手を上げて元気よく返事をすると、耳と尻尾をピンっと尖らせて、にこにこしていた。


「まあ、それは良いとして…明日どうするんすか?昼の内に乗り込むっすか?あ、この紅茶めっちゃ飲みやすいっすね…高そうな味がするっす!」


 と、花奈が食後の紅茶を飲みながら俺にそう問いかけると、タイミングよく電話がかかってきた。


「噂をすれば…だ」


 そこには、今日登録したばかりの協力者である門倉さんの名前が浮かび上がっていた。


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