第69話 地主さんと腕っぷしばあちゃんと乙女心

 地主さんか…確かに一度会ってみるのもアリだな。


 というか仙狐水晶については久那妓さんから直接依頼を受けたとは言え、所有者という意味であれば、地主さんということになるのだから、そちらに報告してから動くのが筋なのだが、俺はその部分をすっぽかしてしまっていたので、今更会うのはちょっとだけ気まずいのだが。


 まあ、半グレ集団相手にするのに協力者という意味では非常にありがたい存在になりうるかもしれない。


 俺はばあちゃんの言葉に耳を傾け、素直に頷く。


「ああ、そうだね…一度会ってみるよ。直接あちらに出向いたらいいのかな?」


「ちょっと待ってな」


 と、俺が尋ねると、ばあちゃんは右手を前に出してこちらに掌を向けると、スマホを取り出して操作すると、耳に当てて口を開く。


「ああ、こんにちは!すみません、ウチの孫が…ええ、ええ…そうです。その件で…はい、そちらに伺いたいと言っておりますので…はい、わかりました、よろしくお願いします」


 と、通話を開始して、何やら話込んでいる様子だった。


 電話口から微かに聞こえてくる声は、どうやら男の声だが、それもかなり年を召している様な、渋い声だった。


「はい、はい…ええ、では…はい、失礼いたします」


 と、一連のやり取りを終えると、ばあちゃんはこちらに向き直り、口を開く。


「今日なら空いてるから、いつでもいいそうだよ。あんた運が良いね、忙しい方だから直接会ってくれるってのはかなり珍しい事だよ」


 と、ばあちゃんは言う。


「俺の今日の予定は聞かないの?」


「どーせノープランだろう?顔に書いてあるよ」


 正直久那妓さんのとこに行くかどうか迷っていた。


 一度訪れる必要はあるだろうが、正直あの長い道のりを行くのは気が重い。


 それに、今久那妓さんは昇華作業で手一杯だろう。


 それも含め、やはり登山をする気にはなれなかった。


 となると、現状やはり手詰まり感は否めなかった。


「なんでばれたし」


「全く、真面目にやんな!コン様も言ってやってください!」


「ん?ん?んん…??その…なんだかよく分からんが、がんばれ、四季、なのじゃ!」


 と、ばあちゃんは俺の膝の上でくつろいで茶を啜っているケモミミ幼女に話を振ると、コンは首を傾げてばあちゃんと俺の顔を見比べ、話を聞いていなかったのか、理解できなかったのかどちらかは定かではないが、顔いっぱいにクエスチョンマークを浮かべて、懸命に言葉を絞り出していた。


「ああ、ありがとよ…」


 そんな可愛らしい応援を受けて、俺はコンの脇に両手を突っ込み抱えると立ち上がる。


「んじゃ、善は急げだ。ばあちゃんも母さんも戸締りにはくれぐれも気を付けて、なるべく二人一緒で離れないように!」


「ああ、任せときな。ま、家に変な奴が来たらあたしが追っ払ってやるさ。なーに、歳は食ってるが、まだまだ若いもんには負けないさね」


 と、ばあちゃんは俺の忠告を受けて、腕まくりをすると、丸太の様に逞しいその腕を見せ付けてくる。


 実際にばあちゃんの言う通り、歳は食っているが、身体は丈夫そのものである。


 先日の事故以来余計にトレーニングを徹底しているくらいだから、いつにもまして筋肉が膨張しているように見える。


 まあ、ばあちゃんがいれば家は大丈夫だろう。


「ほんと、頼りにしてるよ」


 俺は思った事をそのまま口に出し、ばあちゃんにそう伝えると、ばあちゃんは目を細めて腰に手を当てると、豪快に笑い飛ばす。


「かっかっか…ま、あんたらも気を付けて。場所は分かるかい?」


「ああ、ありがとう。郊外の山の上の御屋敷だろ?夕飯までには戻るよ」


「ああ、そうさ。ならさっさと行きな!待たせちゃ悪いからねえ」


「了解、んじゃ行くか…コン…?」


 と、俺がコンを抱えて立ち上がると、コンは小さくケプッと口から空気を吐き出す。


 何とも可愛らしいげっぷだったが、神様もげっぷとかするんだな…と、何の変哲もない感想を抱いていると、コンは頬を赤らめ両手で顔を覆うと、耳をぺたんと垂れ下げて、尻尾をぶわっと強張らせる。


「うっ、その…今のあの…あれじゃ、ほれ、空気の振動で…け、決して態とではないぞ?」


 と、俯きイヤイヤと首を左右に振るコンは、顔をゆでだこみたいに真っ赤にして、押し黙ってしまっていた。


「おいおい、別にげっぷくらい誰だってするだろ…?そんなに恥ずかしい事か?」


「この…たわけっ!」


 と、俺が尋ねると、コンは左手で俺の脇腹を軽く小突くと、眉を逆八の字に吊り上げて不満をあらわにしていた。


「乙女心の分からん奴じゃ…このニブチン!」


 ぷりぷりと怒っている様子だったが、俺には何が悪かったのか分からない。


 まあ、お年頃(?)なのだろうと、無理矢理納得して、そのまま車に乗り込み、地主さんの住む郊外の方へと車を走らせるのだった。


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